2014年02月12日更新
イベント・レポート:Race for Resilience ハッカソン
アイデアの実現可能性、そして、ハッカソンという方法論によるそのアイデアの実現可能性、それらが地震防災にどう役立つのか。ユレッジではアイデアソンに続き行われた「Race for Resilience」のハッカソンを、スター…
2014年01月11日
取材:加藤 康祐
Race for Resilienceという名前、初めて聞かれる方も多いと思います。Resilienceとは復元力、回復力、弾性、というように日本語では訳されるようです。
「発展途上国×防災・減災」という日本で暮らす私たちになじみのうすいテーマに挑戦するこのハッカソン、プログラマーやエンジニアに加え、発展途上国で支援を行う専門家、学生など様々な職業、バックグラウンドをもつ参加者が「防災・減災」という同じゴールに向かって、それぞれの強みを生かし様々なやり方で自由に走っていくレースのような、楽しさと多様性を伴ったものとなるように”Race for Resilience”と名付けました。
初年度となる2014年は日本を筆頭に、アジア数カ国およびハイチ、ロンドン(他順次交渉中)において、同時開催となります。 2月に行われる各国でのハッカソンの後、各国の最優秀プロダクトはグローバル審査に進み、2014年7月にイギリスにてグローバルアワード表彰式が行われるほか、2015年3月の国連防災世界会議でも成果発表が行われます。
実際にNPOやNGO、世銀関連機関の発展途上国の防災・減災活動に取り入れられるようなソフトウェア、ハードウェアをつくりあげ、自然災害に対してしなやかな社会をつくることを目指します。
昨年はフィリピンでの大きな災害もありました。日本の防災技術を東南アジア諸国に輸出する、というような話も出ています。一方で、そういった大きな仕組みではなく、小さなアイデアが、防災・減災にインパクトを持つ可能性はあります。Race for Resilienceが目指す、「自然災害に対してしなやかな社会」、それを実現するためのアイデアソンには防災・減災に関心の高い、様々なプレイヤーが集まりました。ユレッジからのレポートです。
まずは世界銀行、Code for Japan、IT X 防災、Safecastなど、様々な団体、プロジェクトのメンバーによるレクチャーがありました。ハッカソンでどういうアイデアが活きるのか、実際の問題にどういう風にコミットすれば良いのか。Code for Japanの関治之さんが挙げていた3つが重要なポイントだったと思います。
- Find a good problem.
良い問題を見つける- Make a simple solution.
シンプルなソリューションを作る- Extend your duties
自分の役割を拡張する
例えばハッカソンというイベント内に成果物を出すためには時間や人手という制約があります。また、問題を抱える途上国や被災地には通常の現場にはない制約があります。その上で、自分の役割、例えばプランナー、デザイナー、プログラマーと言った区分ですが、そういった制約に束縛されない、リソースが制約されているがゆえに、自身に最大限の自由度を担保する、そういうことの必要性を実感します。
講演はどれも興味深かったですが、ここでは特にユレッジに最初に寄稿いただいた児玉哲彦さんもその原稿で触れていた、Safecastに触れさせていただければと思います。福島における放射能の問題はユレッジでは児玉龍彦さんによる除染に関する原稿に明るいですが、震災当時、福島の放射線量を把握する手立てがありませんでした。SafecastではDIYでガイガーカウンターを組み立て、車や自転車に取り付けて、福島を測定しマッピングします。
Safecastの何よりの強みは「まず、やってみる」を震災とそれに伴う放射能漏れという非常に深刻な問題に対して、計測とマッピングというシンプルなソリューションを用意して、そこに必ずしもその分野の専門科ではない人達が、ただし自分の抱える知見をいかしながら、コミットしたということにあります。以前、和田裕介さんには震災を受けて始めた「anpiレポート」という安否確認サービスについて寄稿いただきましたが、本来的には日本人はこの「まず、やってみる」ということが苦手なんだろうと思います。ただ、特にIT、インターネットの分野においては、この「まず、やってみる」との親和性が高く、防災とITを組み合わせた時に作り得るソリューションの大きな一つの特徴だと思います。
その上で、Safecastが素晴らしいのは、震災から3年を経過した今もプロジェクトは継続中で、日本に留まらず世界の放射線データを共有することを目的とし、環境センシング、環境モニタリングのグローバルな取り組みとして走っている市民プロジェクトであるということです。現在はスマートフォン用のアプリもリリースされており、誰もがSafecastの測定したデータをスマートフォンから参照することができます。良いアイデアから生まれた、良いプロダクトが、世界中にアクティビティとして広まっている。Safecastの紹介は、防災・減災を目的としたアイデアソン、ハッカソンをグローバルに行う意義について、示唆的であったと思います。
いよいよ、アイデアソンです。先述の通りこのRace for Resilienceは「発展途上国×防災・減災」というのがテーマです。そこで特徴的だったのが、各グループに対象となる国が割り振られ、それぞれのグループに必ず「現地」を知る専門科の方がおられること。そう言った、現地の情勢に精通する方の存在は、日本からは距離のある現場との間合いをきちんと掴み、現場のニーズを想起するための重要なファクターとなっていたように思います。
どのグループのディスカッションも概ね下記のような3つのプロセスを経ていました。
- 問題の洗い出し
- 問題の切り分け
- フォーカスした問題に対するソリューションのアイデア出し
用意された模造紙やPostItを使ってアイデアソンが進みます。
対象国はフィリピン、インド、スリランカ、インドネシアなど。様々な議論が展開されていましたが、概ね下記のように整理できるように感じました。
- ITに関する制約
通信データ量
スマートホン普及率
ソーシャル・メディア普及率
インフラの脆弱性- 文化的制約
階級格差
識字率
言語の多様性
宗教- 災害特性
地震、津波、洪水、ハリケーン、地雷、etc.
日本語で話すテーブルも、英語で話すテーブルもありました。今回、防災・減災の中でも「事前防災」にフォーカスが当てられていたこともあり、アラートの伝達に関わるアイデアが多く見られました。川の流れに沿って狼煙のようにSMSなど最低限の通信で危険を伝える、教会・学校・村といった地域コミュニティのリーダーをネットワークし現地の情報伝達の方法を活用するなど、日本の防災の観点から見るとスペック落ちになりがちな途上国にある制約を、うまくアイデアに取り込んで、可能性のある部分を伸張するようなソリューションが多く見られました。
その上で、議論を聞いていて2つ重要な指摘があったと思います。
- 災害の時に普段使わないものは使わない
- 日本は高齢化社会における防災・減災のモデルケースになり得る
ユレッジでは昨年、Blabo!と連携して「地震防災アイデア会議室」を実施しました。これは言わばネット上での一般参加によるアイデアソンで、実は今回の議論のエッセンスの多くは、このアイデア会議室で散見されるものでした。その上で、例えばスマートフォンをラジオ局化して普段は地域の「のど自慢」大会などエンターテインメント目的で普段使いしてもらい、いざという時にはそれをアラートのインフラにするなど、今まで見られなかったようなアイデアも提示されており、アプローチのユニークさも感じました。
最後は各グループが2分の持ち時間で、アイデアソンのアウトプットの発表となりました。
17時から21時くらいまで、およそ4時間ほどのアイデアソンでしたが、大変熱気のあるイベントでした。中学生からベテランまで、幅広い年代層が参加し、しかし、地域のローカル・コミュニティの防災・減災の取り組みとはまた毛色が違った、横断性とスケール感のある議論が展開されていたと思います。ことにアイデアソンに関してはアウトプットというより、そのプロセスと、そこで交わされた議論のコンテキストが重要だったと感じます。自分の頭で考え、想像して、初めて気付くことがある。多くの人にとって、今回のイベントは「途上国」の「防災・減災」という比較的日常的に考えないテーマであり、であるからこそ、「自分が今まで考えなかったこと」を「自分で導きだす」良いきっかけになったのではないでしょうか。
Race for Resilienceでは2月8日、9日にこのアイデアソンを受けた、ハッカソンの開催が予定されています。ユレッジではこのイベントを追いかける予定で、以前、ユレッジにも寄稿いただいた、スタートアップやITの最新情勢に大変詳しい、三橋ゆか里さんにハッカソンを取材していただく予定です。「やってみる」フェイズでどんなアウトプットが生まれてくるのか楽しみです。
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