2014年12月05日

ユレッジでまだ食べることと防災のことについて扱っていないという時に、ご相談することにしたのがえと菜園代表取締役、NPO農スクール代表の小島希世子さんでした。著書『ホームレス農園: 命をつなぐ「農」を作る! 若き女性起業家の挑戦』に詳しいですが、農業界で様々な取り組みを続けている小島さん。小島さんの自然との向き合い方、そして、人との向き合い方を通じて、防災と農業、遠いようで近いその距離感を考え直されます。

こんにちは!えと菜園の小島 希世子といいます。

今回、防災についてお話させていただきますが、

「この人誰?」って方もいると思うので、まず自己紹介させてください。

私は、「食を自分の手の届くところに取り戻したい」という想いがあり、

野菜作りをライフワークとしています。

夏は、トマト、なす、きゅうり、ピーマン、ズッキーニ、パプリカ、サツマイモ、キクイモ、じゃがいも、つるむらさき、冬は、にんにく、玉ねぎ、ホウレンソウ、小松菜、白菜、キャベツ、ブロッコリーなどを作っています。

作り方にはちょっとした特徴があるのですが、

  • 農薬は一切使わない
  • 「肥料」も一切使わない(有機肥料すら使わない)
  • タネも自分で作る!(自家採種)
  • 雑草や虫も敵視せず、仲間と考える

という点にこだわって作っています。

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自然への感謝と畏怖

「野菜を作っている」という感覚ではなく、地球に生きる「人間」という生き物が命をつなぐため、大自然と接する場所で、自然の力をお借りして、大自然を人間が食べられる状態にする役割を行うこと=「作る」ということだと思っています。畑には人間以外の生物がいっぱい!ケバエ、ハチ、バッタ、オケラ、カエル、アリのうち、誰かには毎日必ず遭遇しますし、近くの森にすむコウモリやキジも遊びに来てくれます。

夏の夕方、畑には虫がぶんぶん飛んでいます。「地球には人間だけが生きているんじゃない」ということを日々実感させていただくことができています。「天候」という自然現象が影響してしまう現場なので、自然に泣かされる時もあります。手塩にかけ、収穫を心から待ち望んでいたトウモロコシの収穫を長雨でダメにしたとき、天候不順でじゃがいもの収穫量が思った以上に少なかったとき(今は腕を上げたのでもうないですが)、大豆が虫だらけになったとき、悲しい気持ち半分怒り半分といった心持ちになります。

そんな風に「自然と接すること」が当たりまえの生活なので、自然への感謝の気持ち、そして畏怖の気持ち、というものを日々考えないことはないといっても過言ではありません。

さて、ほかに、私は、自分と同じように、「人間以外の生物と共存をすること」を目指している、熊本県の16件の農家さんたちと一緒に「えと菜園オンラインショップ」という農家直送の通販を運営しています。自然栽培米(無肥料・農薬不使用のお米)、オーガニックの小麦粉、その小麦粉を使ったベーグルなどを販売しています。

農家さんとは、栽培の話などで盛り上がったり、天候による被害の話で盛り下がったり、いくつもの壁をお互い乗り越えてきました。

大雨の被害、日照時間不足、最近では阿蘇の噴煙の話、など、「天候」という「自然現象」に常に左右される仕事である上、自然との接点が大きい仕事ゆえに、「天候」そして「災害」というものは、常に意識しています。

「自然」とは仲間であり、尊敬すべき存在であり、そして「恐怖の対象」であります。

3.11があった時、ある熊本県の農家の奥さんと電話でお話した際、「被災地の農家さんたちの苦労を考えるだけで涙が出てしまう。」と言っていました。数か月かけて育てたものが一瞬にして津波や放射性汚染でダメになってしまうという体験。「災害」に「人災」が重なってしまい、私には想像もできない位の悲しい出来事でしたが、それでも前に進まなければいけない被災地の方々が存在するのも事実です。

人と人という関係性

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私たちの「えと菜園オンラインショップ」はとても小さい小さいお店です。「この農作物は安全だ!」と顔と名前を出して自信を持って送り出せる作り手(農家さん)から、お客様へお届けするこのショップには、100年後、200年後を見据えた目的があります。

その目的とは、消費者と生産者が、商取引で価格のせめぎあいをするのではなく、手を取り合い、「お互いの健康」「未来の子孫のための安心な食卓」を作っていけること、です。

そのためには作り手も「人」、食べる人も「人」ということを日々実感できて、忘れない環境が必要なんじゃないかな、と思います。一日3度の食卓が、存在していることを忘れてはいけないと思うのです。

そうやって何か(この場合はお店)を通じて「人と人が」つながっている、これが「防災」にもなりうる、と思うのです。

震災が起きた時、大学の先輩の会社のスタッフが被災地に支援に行くが食糧がない、ということで、食糧を集めるお手伝いをさせていただいたことがあるですが、その時、食糧を集めてくれたのが熊本県の家族や農業関係の仲間たちでした。

「人と人とのつながり」というものと、「食関係に従事している」ということを、これほどまでに実感したことはありません。

また「自分の手で野菜を生み出している」ということ自体が、「いざというときに」誰かの役に立つことにもつながる、とおもうのです。

人間が命をつなぐためには、食べなければいけませんから。

自らの手で「食糧」を生み出す

私は、野菜作りや農作物をお届けする取り組みのほかに、消費者の方に、実際に『普段自分たちが食べているものは自然の中でどのくらいの時間をかけて育つのか?そしてどうやって作るのか?』を体験していただけるよう、体験農園で種蒔きから収穫まで年間25種類の野菜作り講習会を行っています。

このことにより消費者の方にとって、食卓がより一層楽しく、安全なものになり、そして畑が楽しみの場になること、心の癒しの場になることを目指しています。

藤沢市にある体験農園は、都内からも車で通えるということもあり、幼稚園児から定年退職された方まで様々な方々が食育の場・心の癒しの場・レクリエーションの場、いろんな目的でいらっしゃいますが、ご利用者様の目的に応じて、畑はいろんなシーンを提供してくるってところが魅力ですよね、みなさんが見せてくれる笑顔から私も元気をいただいています。

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そして、最近、私がうれしく思っていることは、利用者の皆様同志が『野菜作り』を介して仲良くなり、畑がある種の『コミュニティ』になっていることです。お子様連れのお子様を、退職後に参加されているご夫婦が面倒を見たり、小学高学年の女の子たちが、小さい子の面倒を見たり…。50代の利用者の方が20代の利用者の方と仕事の話をしていたり…。「地域社会のあるべき姿」、そのの縮小版を、畑で垣間見れている気がして、心温まることがたくさんあります

また、ここにいらっしゃるお客様の中には3.11の震災をきっかけに「自分の手に衣食住を取り戻す」ために野菜作りを学びに来られた方もいます。「農薬も肥料も、種、農業に使う資材すら手作りができれば、自らの手で「食糧」が生み出せれば、天変地異があった時に自分や自分の大切な人たちの命をつなぐことの準備になるかもしれない。」とおっしゃっていました。

私たちの体験農園では、肥料や農薬は使わず、身の回りのものから野菜作りができる農法をお教えしています。その農法は自給自足をしている野菜作りの師匠から、受け継いだ種や農法から私自身が畑で試行錯誤して育ててきた農法です。

遠くの「第二の故郷作り」近くの「集合場所」

3.11が起きた時、関東でも物資がなくなる現象や先がみえない不安があったため、娘だけ熊本県に帰らせました。私の場合は生まれが熊本県で実家があるため、こんな風に避難場所があったのですが、生まれも育ちも同じ場所の方にとって「第二の故郷的な存在」を作るのは大変かもしれませんが、困ったときはお互い様、遠方の友に頼られたら自分が応えたり、逆に頼ったりするのも、一つの方法ではないかと思います。

また、緊急時には、携帯もつながらない、交通機関も麻痺して移動も困難、、という状態になり得るため、主人と『集合場所』というものを決めました。それは、近所の地主さんの畑で、近所中では一番広い何も障害物のない畑の真ん中です。

農の視点から見る防災

農に携わる者として、『防災』というと、

1. 「食を生み出す仲間」とのネットワークを築いておく

言い換えると、消費者の方は、特定の生産者との顔のみえる、コミュニティー的な関係性を築いておくこと。常日頃ゆるやかにつながっておくことで何か(食糧難)が起きたら助けてくれるような関係性を築いておく。

2. 「衣食住の一部を少しでも自分の手元に取り戻す」

例えば、自分自身で野菜を生み出せる技術を身につけておくこと。ハードルが高く感じるかもしれませんが、プランターや市民農園等で、始めるのも手かなと思います。ハマって第一の趣味や、ストレス解消、心の癒しになるかもしれません。

3. 日ごろから自然への感謝と畏怖を忘れない

恐れてばっかりでは前に進みませんが、人間は自然の一部ということを頭の片隅に置いておく、ということ。

4. 集合場所を決めておく

我が家は1か所ですが、3か所位決めておくといいのかもしれません。

防災と農業、「感謝と畏怖の念をもって自然と向き合う」という意味では非常に近いことなのかも知れません。その上で、「自分でできる」ということは安心と自信に繋がりますし、「頼れるコミュニティがある」ということは大きな支えになります。自然を前にして、私たちはとても小さな存在ですが、一つ一つ「確かなもの」を取り戻していけたら。そう思います。

ホームレス農園: 命をつなぐ「農」を作る! 若き女性起業家の挑戦
小島 希世子
河出書房新社
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小島 希世子 / 株式会社えと菜園 代表取締役 / NPO農スクール 代表

1978年熊本県合志市生まれ。慶應義塾大学出身。 2009年に株式会社えと菜園 代表取締役 熊本県の農薬に頼らない農家の奥さんたちと農家直送の通販『えと菜園オンラインショップ』を運営している。また首都圏での農業体験「コトモファーム」にて、都会の消費者の方に種まきから収穫まで農薬を一切使わない野菜作りを体験していただくことで、『農の生産の現場』を知っていただく活動を行っている。 自身は、無肥料・農薬不使用で年間30種類の野菜作りを実践している。 内閣府地域社会雇用創造事業「第1回社会起業プランコンテスト最優秀賞」等の受賞、TV等のメディア出演も」多数。 その他、「NPO農スクール」を設立し、働きたいけど仕事がない方と人手不足の農業界をつなぐ取り組みを行っている。

著書『ホームレス農園』(河出書房新社)

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