2015年03月27日更新
「J-SHIS Web APIを使ってみた – その場所の揺れやすさを調べてみよう」
J-SHIS 地震ハザードステーションでは、様々な情報をAPIの形で提供しています。J-SHIS Mapで実際に利用している統計データを、一般の開発者にも使える形で提供しており、地震防災に役立つAPIとしては、代表的なも…
A:独立行政法人防災科学技術研究所勤務の30代地震マニア男子。ニックネームは「アジー」。
J子:静岡県出身、都内荒川区在住の20代文系OL。ひょんなきっかけでアジーと出会い、地震について学ぶことに。ミーハーで情報に流されやすいのがたまに傷。
【A】今回は予告通り、J-SHIS Mapで今一番HOTな地図といえる「長期間平均ハザード地図」についてご紹介したいと思います。
【J子】以前紹介した「確率論的地震動予測地図」もそうでしたが、またまた長くて覚えにくい名前ですね……。なにを意味する地図なのかがさっぱりイメージできないです。
【A】スミマセン……。
【J子】J-SHISの解説ページには、「数百~数万年に一回というまれな地震によって起こりうる揺れの大きさを示す地図」と書いてありました。再現期間が10万年、5万年、1万年……って言われても、正直ピンとこないっていうか……。
【A】 今日のJ子さんは、ツッコミ厳しいですね。
【J子】だって、地球史年表でみると
10万年前:現代人(ホモ・サピエンス)がアフリカを出て世界各地に拡がった
5万年前:クロマニョン人が出現
1万年前:日本は縄文時代で, 土器が作られた
1000年前:平安時代
とかですよ。平安時代とかなら、大きな地震の記録が書物に残っていたりするのかな〜くらいに思いますけど。そもそも10万年前とか、文明がまだ体験したことがないような揺れが起こるかもしれないってことを、どうやって予測してるんですか?
【A】それは、「恐竜」の例がわかりやすいかもしれませんね。
その昔、恐竜が地球上に存在していたことはみなさん知っていますよね。でも、実際に見たことがある人は誰もいません。恐竜の化石が発掘された地層から、恐竜のいた時代を割り出しているわけです。
同じように、地下の構造を調べていくと、地層のズレなどから、その場所で過去にどんな地震が起こったのかがわかるそうです。日本の地下には、数万年に一回の頻度で大きな地震が起こっていることを示す記録が、いたるところに埋まってるんですよ。
【J子】ええ!そうなんですか?
【A】その中から、地震本部が長期評価している活断層をJ-SHIS Mapで表示させるとこうなります。
※「長期間平均ハザード地図」の上に左の震源断層のチェックボックスを全てオンにして表示しています
より詳しい活断層に関するデータは、産業技術総合研究所の活断層データベースでも見ることができます。
【J子】わー、日本列島の地下は、活断層だらけですね。以前、「Think Like A Bird」で読んだ、神社や石碑など「土地に残っている記録」に関する記事を思い出しました。地面の中にこそ、地震が起こる確率やその大きさを予測する際に重要な情報や証拠が刻まれているんですね。
【A】そういうことです。たとえば1万年に1回の頻度で起こる内陸活断層地震を、ある短い期間で考えてみると、確率が非常に小さいのです。なので、「確率論的地震動予測地図」では、まれに起こる大きな地震のアラートがほとんど見えてこないことがあるんです。
【J子】「確率論的地震動予測地図」では、30年、50年といった比較的短周期で起こる地震のみが考慮されているようなイメージなんですか?
【A】違います。「今後30年、50年の確率論的地震予測地図」でも、1万年に1回起こる内陸活断層の地震の影響は考慮されています。でも、短い期間にある地点が見舞われる揺れの大きさの確率(=地震動の超過確率)として表現した時に、数百年に1回起こる海溝型の地震の影響と同じ地図上で見ると、相対的に値が小さすぎて色としては見えてこないのです。
でも、今から30年、50年という期間だと、みなさんが自分と関係のあることとしてイメージしやすいですよね? そういう意味で2つの地図の役割は、氷山と似ています。
航海中、海面から出ていて目に見える部分の氷山(=今後30年、50年といった比較的短期間の予測)はイメージしやすく、衝突しないように注意・回避することができますが、実は、水面下にある目に見えない部分(=数万年に一回の頻度で起こる揺れ)にも同じように注意しなければならない。
「海溝型地震」は数十年から数百年、「陸域の活断層で発生する地震」は数千年から数万年に一回程度の頻度で発生することが知られています。これらは、J-SHIS Mapの「地震活動モデル」のボタンから、評価されている各地震を「平均発生間隔」の列でソートして見ることができます。地震の再現期間が長いということは、発生頻度がより低い地震と言い換えることができます。
長期間平均ハザードの再現期間と影響がよく見える(地図上に表現されている)地震の種類を整理するとこんな感じになります。
再現期間10万年相当の地図 | 震源を予め特定しにくい地震を含むほぼ全ての地震 |
再現期間1万年相当の地図 | ほぼ全ての海溝型地震と主要活断層帯の地震 |
再現期間1000年相当の地図 | 主要な海溝型地震 |
つまり、想定しうるほぼすべての地震による揺れを考慮できるのが10万年の「長期間平均ハザード」なんです。先ほどの例で地震ハザードを氷山として表現しましたが、まさしく氷山全体を見える化した地図と言えると思います。ある強さ以上の揺れの大きさに見舞われる確率(=地震動の超過確率)と揺れの大きさの関係は、以前ご紹介した「地震ハザードカルテ」の中に出てくる「ハザードカーブと影響地震カテゴリー」のグラフでも見ることができるんですよ。
30年超過確率が小さくなる(=より低頻度で起こる地震を考慮する)につれて、揺れの大きさ(=工学的基盤上の最大速度)が大きくなっていることがわかります。
【J子】「長期間平均ハザード地図」のすごさがなんとなくわかってきました。
それにしても、「再現期間10万年相当の計測震度」の地図をみると、日本のほとんどの地点で震度6弱以上じゃないですか! 日本のどこにいっても、地震の危険からは免れないってことですね。
【A】 そういうことですね。
【J子】ところでこの「長期間平均ハザード」は、J-SHISの2012年版から新たに追加されたそうですが、2011年の東北地方太平洋沖型地震の前にはなかった地図なんですか?
【A】そうなんです。震災直後、「なぜ地震学で予測できなかったんだ?」という声が多く聞かれたこともありました。信頼を取り戻すべく、取り組みを続け発表されたのがこの地図なんです。
【J子】なるほど・・・。「長期間平均ハザード」は、震災を教訓に、地震動予測の信頼性を高め、反省をもとに追加された画期的な地図だったのですね。
一般人としては、「地震はいつ起きるの? 起きたらどれくらい被害があるの?」ってことばかりが気になってしまいがちですよね。
でも、日本に住んでいる限り、全国で見るとどこかで数十年に1回は大きな被害が出る大地震は十分に起こりえるのは明らかなわけで。それをいろいろな角度からアプローチして予測して、精度を高めようとしているのがこの取組みなんですよね。
【A】そうです。未来に日本で暮らしている人の命をひとりでも多く救うための努力と新しい研究が粛々と進められています。
【J子】そのためにも、より多くの人がこの地図の内容を理解して、備えができていたら、すごくいいですよね。
【A】そうですね。地震というとても長いスパンで起きる現象については、数万年に1回の頻度で起きる地震への対策ができていなければ、本当の意味での「地震対策ができている」とは言えないのです。
参考文献:
・J-SHIS 学ぼう 長期間平均ハザード地図
http://www.j-shis.bosai.go.jp/avg-hzd-map
・Wikipedia 地球史年表
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E7%90%83%E5%8F%B2%E5%B9%B4%E8%A1%A8
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