2015年03月27日更新
「J-SHIS Web APIを使ってみた – その場所の揺れやすさを調べてみよう」
J-SHIS 地震ハザードステーションでは、様々な情報をAPIの形で提供しています。J-SHIS Mapで実際に利用している統計データを、一般の開発者にも使える形で提供しており、地震防災に役立つAPIとしては、代表的なも…
A:独立行政法人防災科学技術研究所勤務の30代地震マニア男子。ニックネームは「アジー」。
J子:静岡県出身、都内荒川区在住の20代文系OL。ひょんなきっかけでアジーと出会い、地震について学ぶことに。ミーハーで情報に流されやすいのがたまに傷。
【A】今日は先日発表された地震ハザードステーション(J-SHIS)の新機能「地震ハザードカルテ」をざっくりとご紹介したいと思います。
【J子】ほー、カルテですか。カルテって聞くと、病院のカルテを連想しますけど。自分専用のものが作られちゃうんですか?
【A】そうです。調べたい場所を入力すると、J-SHISで公開されているその地点における地震ハザード情報が、まるで健康診断の通知書のようにA4一枚に出力されるのです。
【J子】それはすごい! J-SHIS Mapを使いこなすのが難しい!という人にはもってこいのサービスですね。
【A】まさにそうですね。では、さっそくカルテを出力してみましょうか。
こちらのページで、まず場所のキーワードを入れます。例として「東京都庁」の地震ハザードカルテを出してみましょう。入力欄に「東京都庁」を入力して「診断する」ボタンを押します。
実際に出力された、「東京都庁」を含む約250m四方に関する地震ハザードカルテはこちらです。
【J子】おおー! 本当にカルテっぽい! でも、書いてあることはなんだか難しそう。どう読み解けばよいのですか?
【A】そうですねー。今日は、このカルテの読み方を大雑把にご説明することにしましょう。カルテは大きく7つの項目からなっています。
(1)評価地点情報
(2)総合評価
(3)表層地盤
(4)深層地盤
(5)30年、50年地震ハザード
(6)ハザードカーブと影響地震カテゴリー
(7)長期間平均ハザード
今回は細かい説明は省いて、最低限チェックしてもらいたいポイントをピックアップしてご説明しますね。
まず、カルテの中全体を俯瞰で眺めたものが(2)の総合評価です。(3)〜(7)の各項目を以下のランク表でA—Eの5段階で評価し、レーダーチャートにまとめたものがこちらです。直感的に、レーダーチャートの赤い部分の面積が大きいほど、地震ハザード(注意すべき地震の揺れの危険)が総合的に高い場所といってよいでしょう。逆に赤い部分が小さければハザードのレベルは全体的に低めになります。
【J子】なるほど。となると、都庁はわりと危険地点ってことなんでしょうか。
【A】他の地点と比較するとわかりやすいです。例えば、まだ周囲に震源断層が少なく、地盤も良好な地点として「北海道紋別郡 滝上町字サクルー原野」のレーダーチャートはこんな感じになります。
【J子】えー。かなり形も赤い部分の面積も違いますね。
【A】ただ、ランクがAの場合でも、地震による危険が全くないというわけではありません。
【J子】わかりました!
【A】次は、(3)表層地盤の「地盤増幅率」です。これは揺れの増幅率を表していて、真下で同じような地震が起こってもこの値が大きければ大きいほどその地点が揺れやすいことを示しています。
【J子】へー。これ、朝日新聞デジタルの揺れやすい地盤でも見れるやつですね。
【A】そうですね、同じデータを使っています。もうひとつの足下の情報として、(4)深部地盤があります。ここのグラフの見方をざっくりお伝えしてしまうと、L字型のほうがより深いところまで地盤がやわらかいので危険側、逆L字型「¬」に近い形だと硬い地下構造といえます。
ここはちょっとわかりにくいのでもう少しだけお話しますと、一般的にものの硬さは波の伝わる速さで表現することができますよね。
【J子】あ、理科の実験で、鉄板だと木や水より速く振動が伝わるって、コンコン叩いてやった気がします!
【A】そうです! Vsというのは地震のS波が伝わる速さ(Velocity)のことで、このグラフの下に書いてあるように、速いほど固いことを表しています。L字型、つまり深いところまで柔らかい場合、その地点が厚い堆積層(柔らかい地下構造)の上に乗っかっているということ。つまり、プリンの上に乗っているみたいな状態にあるってことです。これに対して、逆L字型=浅いところですでに固くなっていれば、固い盤の上に柔らかいモノはあまり乗っかっていないということを示していますよね。たとえば、こちらのグラフはきれいな逆L字型になっていますよね。
【J子】へー。本当だ。
【A】こっちは、斜め45度に階段上に降りていっています。これはL字と逆L字の中間ぐらいから、ややL字よりと考えてもらえれば良いでしょう。
【J子】なるほど、わかりました。
【A】続いて、(5)「30年、50年地震ハザード」は、以前ご紹介したJ-SHIS Mapの確率論的地震動予測地図の内容です。覚えていますか?
【J子】あー…はい、なんとなく。今後30年間にある震度以上の揺れに見舞われる確率の値をJ-SHIS Mapで見たような。でも、ここの3%とか39%とか…、なんでこんな中途半端な数字になってるんですか?
【A】この表を見てみてください。
【J子】あ、そういうことだったんですか。
【A】はい。いろいろな仮定も含めた近似式を用いて大雑把に言うとですが、そういうことです。
そして、(6)「ハザードカーブと影響地震カテゴリー」は、地震の種類を考慮して揺れやすさを見たグラフになります。いろいろな色の線が描かれていますが、今回は黒い線だけに着目することにしましょう。このグラフは、L字型に近づけば近づくほどハザードは全体的に低く、逆L字型「¬」だとハザードが高い(高い頻度で大きな揺れに見舞われる)という意味です。
【J子】上の左側は東京都庁、右側は「北海道紋別郡 滝上町字サクルー原野」のハザードカーブですが、左側の方がより大きな地震に見舞われる可能性が高いということなのですね。
【A】はい、そういうことになりますね。そして最後は、(7)長期間平均ハザードです。これは、その地点での地震の累積を考慮したときに、どれくらいの揺れに見舞われるか、を表したものとも言えます。
【J子】都庁のある場所では、5万年生きてたら1回以上震度7で揺れるってことですね。でもそれが明日である可能性も0じゃないと。どのレベルのできごとに備えるかって本当に難しい問題なんだなってことと、できる「備え」はやっておくのが大事ってことがよくわかります。
【A】カルテの読み解き方をざっくりとですがご紹介しましたが、見るポイントは理解していただけたでしょうか? 少し難しく感じる項目もあるかと思いますが、その地点で起こりうる揺れについて、いろいろな角度から分析したハザード情報が一枚にまとまっているとお考えください。
【J子】「地震ハザードカルテ」、おもしろいですね。ぜひ「一家に一枚」常備しておきたいです!
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