2013年07月30日

ライターの三橋ゆか里さんは、日本のみならず、海外のWEBサービス、アプリ、スタートアップ事情にも精通しており、様々なメディアに執筆されています。ユレッジではテクノロジー企業やスタートアップが、災害時、また、防災に、どのように役立つ可能性があるか、サービスの紹介と共に紐解いていただきました。

2011年3月11日に日本をおおきく揺らした東日本大震災には、世界中から支援の手が差し伸べられました。震災から2年後の今年3月に国際開発センターが発表した調査レポート(調査期間:2011年3月11日から2012年3月末)によると、震災への海外からの支援実績は174ヶ国・地域に及びます。174ヶ国・地域のうち、119が日本のODA対象国、35ヶ国がアジアやアフリカの後発開発途上国で、さらに43の国際機関からも支援の申し出を受けたといいます。

こうした支援は、人的なものから物的支援、金銭による支援などさまざまな形をとっています。また世界には、災害時や防災に役立つプロダクトやサービスの提供にフルコミットするスタートアップや企業がいろいろあるようです。これらの起業家のサービス立ち上げのきっかけは、自身が災害に見舞われたことであったり、直接経験はしていなくてもどこかで起きた災害を支援するという有志であったり。日本の“Disaster Relief”、災害救済にも活用できるかもしれないサービスをいくつか紹介したいと思います。

災害後のコミュニケーションを円滑に

Recovers.org

Recovers.org」は、地域コミュニティによるウェブサイトを構築できるサービスです。主に災害後の円滑なコミュニケーションに役立つように設計されていて、最新ニュースの取得、ボランティアとして参加できるイベントの確認、寄付するといった機能がついてきます。マサチューセッツ州モンソンで生まれ育った姉妹が、2011年夏に故郷を襲った竜巻をきかっけに立ち上げたサービス。2012年にニューヨークを浸水させたハリケーン・サンディでは、30,000人のボランティア登録があったといいます。自らの被災経験をもとに、災害に特化したウェブサイト構築を実現してくれます。

普段からのご近所付き合いを強化

Nextdoor-for-iPhone

ただでさえ、ご近所付き合いが希薄化しているといわれる昨今。災害があってからではなく、普段から地元コミュニティのネットワーキングをきちんと行っておくことで、いざというときに一致団結できる。米国では、地元コミュニティの30%が近所の人の名前を知らないという状況があり、それを改善するために誕生したのが「Nextdoor」です。Nextdoorはご近所さんと非公開に使えるSNSで、サービスリリース後1年で米国50州のコミュニティすべてで活用されるようになりました。プロフィール登録をすることで、ユーザは掲示板でやり取りしたり、災害時にはプッシュ通知で最新情報を把握したりできます。スマホアプリも展開しています。

生活必需品をまとめてデリバリー

緊急時のシェルターや必需品をひとつのボックスにまとめて提供するのが、「ShelterBox」です。2000年に、もと王室海軍のレスキューダイバーだった人が立ち上げました。重さ49ガロン(約185リットル)にも及ぶボックスは災害地によって最適化され、例えば寒い土地なら毛布、浄水キット、ストーブ、調理道具などが詰められます。寄付で成り立っており、誰でも25ドルから寄付することが可能。すべての寄付には、ボックスを特定するIDが付与されるため、自分がどの国のどの災害を支援したかを把握できる仕組みです。イギリスを拠点とするShelterBoxは、これまでに75ヶ国、200以上の災害に送られてきました。日本にはまだないようですが、世界20ヶ国に提携パートナーが存在します。

【紹介動画】

【東日本大震災を受けて】

つくる飲み水、届ける飲み水

c-water

タイの国立ナノテクノロジー研究センターが研究開発するのは、太陽光で動くポータブルな浄水器です。水を6段階でろ過することで、1時間に200リットルの飲み水を生産できるそうです。「C-Water」もまた、中国人エンジニアがプロトタイプを試作する浄水器。日光で水を蒸留させることで浄水するため、すでにある自然の資源で飲み水を生成することが可能です。別のアプローチで被災地に水を届けるのが、「TOHL」です。ハイチ地震を受けて、ジョージア洲の学生4人組によって立ち上げられました。携帯可能なパイプラインの開発で、従来の大がかりなパイプラインの敷設を簡易化し、近隣から被災地に水を届けます。

少しでも快適な避難ハウジング

quickhab_grass

実用的な避難シェルターをつくりたい。そんな思いから発明された、LEGOのようにパーツを組み合わせることで立てられるのが「QuickHab」。ハリケーンカトリーナの被災地に供給した米連邦緊急事態管理局のトレーラーが、有害なガスが放出するという事件がありました。QuickHabは、これを受けてサンフランシスコの建設業者が立ち上げたものです。それぞれのシェルターに給湯器、シャワー、トイレ、キッチンなどが完備されており、シェルターの固まりごとに設置されたソーラーパネルで電力が供給されます。また一時避難には、「Airbnb」のような住居の貸し借りサービスも有効でしょう。本来は宿泊先を探す旅行者によって活用されるサービスですが、災害時には災害対応ページを開設。空きスペースのある人は、家への寝泊まりを無料提供することで支援に参加できます。

クラウドソーシングという支援の形

Photo via iRevolution

Photo via iRevolution

東日本大震災を含め、災害時に私たちの想像を超える活躍を見せたのが各種オンラインサービスでした。なかでも、FacebookやTwitterといった日常的に使われているSNSが注目を浴びましたが、2010年のハイチ地震では現地でSNSより一般的に普及するSMS(モバイルのショートメッセージサービス)が活用されました。4桁の数字から成るSMS専用コードにメッセージを送るだけで、災害救済に関する情報を発信できる。集まったSMSメッセージを解析することで、救済を必要とする人を特定し、さらにはその緊急性も把握することができました。また行方不明者を探すための情報収集ツール「Google Person Finder」など、Googleの災害対応のサービスもクラウドソーシングの力を大いに活用しています。通信環境やツールが整ってきた今では、現地の人に情報を発信してもらうという前提で成り立つサービスも増えているのです。

このように、海外でも、さまざまな支援の形、それを形作るためのサービスが展開されています。これらのサービスに直接支援を求めたり、または一緒に組むことでその地域に最適化されたサービスを展開したり。同様のサービスを日本で展開する際のインスピレーションにすることもできるでしょう。少し前から、ソーシャルグッドという分野のスタートアップが注目されています。最大公約数のために社会をより良くするサービスや活動のこと。本当にニーズを抱える人を助けるためのサービスを生む、何かあたらしいヒントが見つかりますように。

三橋 ゆか里 / ライター・記者

ライター・記者。オンラインショップ、UIコンサルティング会社、Web制作会社等を経て2009年に独立。日経デジタルマーケティング、Markezine、Japan Timesなどで執筆。また、女性誌のウェブサイトやスマホアプリ紹介の記事も手がける。アジアのITニュースが集まるStartup Datingでは、日本のITニュースを世界に発信している。

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