2015年10月02日更新
「まち」を「つくる」:COMICHI石巻 ー災害後のまちづくりを考える
被災、という言葉と、復興という言葉。防災ということを考えるにあたって、直後の災害対応について考えるだけでなく、より長い時間軸、人や街や共同体が新しい姿を模索していくことを中長期的な視点で捉えることは、このユレッジというプ…
2014年06月04日
「コードでつなぐ。想いと想い」これがHack For Japanのキャッチコピーです。ここでいうコードとはもちろんITエンジニアが言うところのプログラムコードのことなのですが、『開発者の「何かしたい想い」と被災地の方の「切実な想い」をつなぐ場を訴求する』ということを表しています。さらに、開発者同士や開発者とデザイナーの想い、被災地の方同士の想い、被災地から遠い場所に住む方の想い、ITとは無関係でも何かしたいと願っている人の想いなど、さまざまな状況にいる方の想いをコードでつないでいくという主旨です。
Hack For Japan は2011年3月11日の東日本大震災発生から間もない3月19, 20, 21日に開催されたハッカソンから始まりました。
2011年3月11日、私は当時の勤務先のオフィスがある新宿にいたのですが、結局その日は電車が動かず会社に泊まりました。私は仙台に以前10年程住んでいた時期があるのですが、且つて自分が住んでいた場所の被害が尋常ではないことを知るにつけ段々と気が気でなくなり、仙台にある妻の実家ともすぐには連絡が取れない状況でした。そしてその頃、Google からは Person Finder が迅速にリリースされ、現在は石巻在住で、私が仙台に住んでいた頃にお世話になった方の無事を知ることが出来ました。また、妻の実家の無事も twitter でマンション名を検索していたところ、直接連絡がつくよりも前に建物の無事は確認できたということもありました。このような体験もあって「ITの力で役立てることがあるのではないか」と考えるようになっていきました。(ただし、これらのことは後から思い知らされることになるのですが、あくまで現地の状況を外から知るのに役立ったと言う話であって、電源確保もままならなかった場所ではITどころではなかったというのも事実だと思います。)
その頃、Google の及川さんの「一気に短期間でモノを創り上げ てしまう開発者合宿として定着しつつあるハッカソンを今こそ開催すべきである」という声がけで会社の枠を越えて人が集結し始め、3月19, 20, 21日のハッカソン開催に向けて正にギリギリのところでの準備が進められていました。私はtwitterでそのことを知り、これなら自分達も何か出来るのではないかと思い、当時開発に携わっていたセカイカメラというAR(拡張現実)アプリケーションのAPI提供を申し出たことをきっかけに関わることになり、今に至ります。
多くの方が持っていたであろう「何か出来ないだろうか」という想い、それが Hack For Japan の原点です。
ご存知の方も多いと思うのですが念のために説明させて頂くと、これは Hack と Marathon を合成した造語です。通常、同じテーマに興味を持ったデベロッパーが集まり、互いに協力してコーディングを行うイベントをこう呼んでいます。ただし、Hack For Japan でのアイデアソン、ハッカソンは必ずしもエンジニアに限らず、デザイナー、ボランティア活動をされている方など、復興支援にアイデアをお持ちの方、何かできないかと考えている皆さんに広く参加していただけるようにしていました。
Hack(ハック)という言葉を使うことにはいろいろと議論がありました。「ハッカー=悪いことをする人」 というイメージが一般的にあることは確かです。しかし、あえて Hack という言葉を使い続けることでそういう悪いイメージを払拭したい、そんな思いがあります。ある新聞の記事では「善玉ハッカー」という表現を使っていただきました。新聞という多くの皆さんの目にとまる場所でそのように取り上げていただいたことで、ハッカーは悪い人のことではないということを少しは訴求することができたのではないかと思っています。
このようにして2011年は何度もアイデアソンとハッカソンを開催し、4月の会津若松、新幹線も仙台まで復旧した後の5月には仙台、会津若松、東京、そして3回目となる7月には岩手の遠野も加わり、エンジニアだけでなくボランティアに関わっている方や、アイデアを持っている様々な皆さんに参加して頂きました。さらに遠く離れた西日本でも会場を自分たちで調達してまでして何かをしようという多くの人に参加して頂きました。
今までの活動の中には、成果を出せたものもあれば、掛け声だけに終わったものや、あまり効果的ではなかったものなどもあります。また、私たちHack For Japanの活動はITを活用した復旧・復興支援の中でも「開発」に重きを置いたものですが、私たち以外にも多くのITを用いた復旧・復興支援を行っている団体やコミュニティ、そして個人がいます。
思いを同じとする人々が集まり、今までの活動を振り返るとともに、今後の活動を検討し、協力関係の可能性を検討するためにと企画されたのが、2013年10月6日に開催された「ITx災害」会議です。
Hack For Japanでは2012年に、復興支援などに対してITの力を活かして貢献したいという思いを持つ方と支援を必要としている方とを繋ぐための取り組みである、スキルマッチングを開始しました(http://blog.hack4.jp/2012/12/blog-post.html)。しかし、今に至るまであまり活用されていません。Hack For Japanの活動に賛同していただいている人は多いものの、やはり開発者が参加者の多数を占めるHack For Japanのコミュニティだけでは協力関係構築が難しかったのではないかと考えられます。この課題はスタッフの中では認識されており、コミュニティの拡大やほか団体との連携などが以前から検討されていました。
そのような中、Hack For Japanに当初から参加いただいている方から、今までの活動を振り返り、ITによる復興支援のあり方を考える必要があるのではないかという声もあがってきました。
これらがきっかけになり、「ITによる復興支援のあり方会議」(当初、「ITx災害」はこう呼ばれていました)の準備会が発足しました。2013年6月末に行われた最初の準備会では、30名近くの方が集まり、震災以降の取り組みなどが共有されました。お互いにそれぞれの存在は知ってはいたものの、直接話すのは初めてという参加者も多く、「つながる」という意義を再確認し、本会議への期待がさらに高まりました。
その後の準備会で、将来に起きうる災害に対しての防災や減災も話し合うことから、会議名を「ITx災害」会議(「x」は「かける」と読みます)とすることに決定しました。また、参加者全員に積極的に参加してもらうため、アンカンファレンスという形式をとることとしました。参加者の皆さんには付箋紙に自分が考えているトピックを書いてそれをホワイトボードにどんどん貼付けて頂き、それらのトピックを14に絞り込み、AからEの5つのトラックに分かれて次のようなディスカッションが行われました。
マスメディアは命を救うことはできないという話が出ました。そのためマスメディアのようなトップダウンではなく、ボトムアップによる市民メディアが必要で、その例としてローカル発信のメディアとして、ツイッターで発信している人たちを集めて発信していくという、実際に震災時に役立った女川災害FMの事例が挙がりました。その反面、個人が発信する情報の信頼性も大切で、女川災害FMにおいても信頼性に対するリテラシーを高めていくことにチャレンジしていました。また女川災害FMからの情報を東北放送が放送するといったこともあり、情報発信のプラットフォームについての議論もありました。
災害時に人の命を救うようなアプリケーションはどのようなものがあるかを考えました。状況によって、ネットに繋がっている場合と、繋がらない場合の二つの前提があります。繋がっている場合でも、災害用サービスを使える状況になっているのは2割というデータがあります。緊急地震速報を受信したら自動的に立ち上がるアプリ等が最初から組み込んでおくことが必要とされるのではないかと思われます。繋がっていない場合は被災地でのネットワークを何とか構築出来ないかという話になり、携帯をトランシーバーのように使えるような、WiFiのアドホック通信等の話が出ました。長い距離での通信が出来るようにして避難所間で支援の情報などが共有出来ると良いのではないかと思います。
お金の問題、人の問題、体制の問題の3つの軸で議論しました。
お金については、災害と言っても普通のビジネスと同じような問題があります。ボランティアでエンジニアはいても企画や営業の人があまりいなかったのではないでしょうか。そう言う人にお金を回す仕組みを考えてもらえると良いのではないかという話がありました。
人については、気持ち、情熱、やりがいがどこまで続くかという問題が出てきます。ボランティアでやって頂いていたことに対してお金を払うようにした後、そのお金の範囲でしか成果が出てこなくなったという事例もありまして、ビジネスとボランティアという相反する中でどう自分の立ち位置を決めるか難しいのではないかと思います。体制については、プロジェクト立ち上げ時に合意形成をしないといけないということが挙げられます。
地図をどう使ったかの振り返りを行いました。災害時の地図は必ずしも使い易いものではなく、地図と何をひもづけるか、物資をどこに送るかなどに活用出来るよう、例えば自転車に何かセンサーを付けることで地図作りが出来るのではないかというアイデアが出ました。
アーカイブとしていろいろ残っているものの中に忘れる権利、忘れて欲しいというものもあるのではないかという議論がありました。「プライバシー」という言葉が片仮名であるように、日本ではそもそも対応する概念がないのではないでしょうか。例えばツイッターのアーカイブを削除する権利もあるのではないかと思います。客観的なプライバシーと主観的なプライバシーの違いもあり、不安を持たずに個人情報を登録する環境はないかという話になり、個人情報保護法など法整備の問題があるが民間主導型でやれると良いのではという話も出ました。
「連携した方がいいよね」と言っているだけではなく、想いがあって動ける人が集まる今日のような場を継続してやっていくことが大切です。顔を突き合わせた関係はオンラインより強いので、ネットだけでなくリアルでの飲み会などをやっていきたいということになりました。
緊急時、復興時の話がありますが今回主に話したのは緊急時のことで、行政の方で根本的な思想が無いので統一した動きが取れていないのではないかという話がありました。民間の方でもバラバラ、民間の方でもまとまるべきで、最終的には人間関係が大切です。
オープンデータと言ってしまうと余計な調整が入ってしまう恐れがあります。災害時公開情報というような言い方にして災害時公開協定というようなもの、具体的な事例とセットで設けておくと良いのではないかという話が出ました。また、行政との間で共同でアイデアソンを行って、お互いの合意を取っていくことが出来ると良いのではないでしょうか。
基本的に残すことは良しという方針で議論しました。如何にしてアーカイブしたものを見易くするかということになります。アーカイブの可能性として個人が撮ったものも残していけないかと思っているのですが、個人の写真や顔が入ってしまったものをどう扱うかというスクリーニングが課題となります。また、ライセンスの問題もあります。例として気仙沼のリアスアーク美術館ではスクリーニングがされており、個人の撮影のものが展示されていて参考になります。
主に高齢のIT機器を使えない人にどうやって情報を届けるかということを議論しました。通話とメールしか出来ない人にどうやって届けるか、若者と高齢者がコミュニケーションを取れるようにして、そこから伝えてもらうようにするのが良いのではないでしょうか。その一方で、タブレット等は高齢の方でも使ってみたいということがあるのでUIを工夫して使ってもらえるようなものを考えていく必要もあると思います。
このテーマはなかなか成功例が見えてこない分野でもありますので、引き続きアイデア出しと実践をやっていかなければいけないと感じています。
ITベテランとは、ここでは災害を経験し、そこで何らかの活動をした人と定義させて下さい。ハッカソンをどんどん開催し、いざという時に役立てるようにそこでの成果をストックしてみられるようにしておくのが良いと思います。実際の災害時のニーズが合わないことも想定されますが、短時間で何かを仕上げるハッカソンではスピードと忍耐力が鍛えられるため、緊急時にはその忍耐力を活かして物を作っていくことが出来たらと思います。
そして、そういったイベントに若者をどんどん巻き込んでいくべきです。なぜなら今ここにいるベテランの人は次に何か起こった時には高齢化してるかもしれないからです。
ITの教育と言っても上からではなく「自走するためのエンジンを身につける」ことが大切です。他の人にも教える、伝える、クローズドにせず成果を公開して誰でも使えるものにすることが広がりを産んでいきます。
災害発生後10から100時間の間にやっていくことを話しました。避難所のガバナンスの話で、地域にリーダー的な人がいる場合は良いのですが、そういう人がいない場合は治安の問題なども発生する確率が高かったようです。また、避難訓練の際に避難所を立ち上げてITでやることも同時に訓練すると良いのではないかという話もありました。
被災地の過疎化は実は震災が起こる前から進んでいて、そこに震災が起きてスピードアップしてしまった状況です。そこでどうやってコミュニティを活性化するかということがポイントになります。人を集める仕掛け、仕組みづくりが必要ということでいろいろな提案があり、人口を増やすことに成功した徳島の事例を東北と共有すると良いのではないかという話が出ました。また、コミュニティを再生するにはマネジメントスキルを持つ人が必要で、そういう人を如何にして地元で育て活躍してもらうかということが必要です。
10月6日の会議を受けて、10月26日には「減災ソフトウェア開発に関わる一日会議」が行われました。これは、10月6日の議論を深め、さらに新たな知見を集めることで、災害発生時にどのような対応をとることができるのか、実践的かつ理論的に討議することを目的としたものです。
ここでは発災直後のITでの役割やソーシャルメディアの活用ポリシー、被災地で早急にインターネットアクセスを可能にするための技術などについて話されました。たとえば、東日本大震災の際、ソーシャルメディアで情報の拡散を依頼されることがありました。情報によって拡散すべきものとそうでないものがありますし、またより精度の高い情報が後に提供された場合に、拡散した情報をどのように扱うかは検討が必要です。デマが拡散されてしまった事例などを思い出す人もいるでしょう。このように、発災後にどのようにソーシャルメディアを活用するかを事前に明文化しておき、発災とともに、そのポリシーを明示することなどが議論されました。
また、東日本大震災でもITが必ずしも有効に活用されていなかった事実を冷静に見つめなおし、発災後のある段階からより効率的にITを活用するために、もっと組織的に取り組むための話し合い(情報支援レスキュー隊構想)も行われました。
この「減災ソフトウェア開発に関わる一日会議」に見られるように、会議を行うことが目的ではなく、これをきっかけとしてITによる災害への対応を具体的に進めていくことが目的です。そのため、アンカンファレンスで出たアイデアなどを実現していくための仕組みをスタッフ側では用意しようと考えています。具体的には、Wikiを立ちあげ、そこに派生したプロジェクトの進捗や作業メモなどを保管できるようにします。このWikiは発災後の情報ポータルとしても活用可能です。
「ITx災害」会議は昨年に続いて今年の秋にも開催を計画しているところです。防災・減災についてITでなすべき役割においては、「ITx災害」がふさわしい場であると考えられますので、Hack For Japanはその活動を技術面で支える役割を担います。
これまでHack For Japanでは、賛同者の方たちの連携を深めるためにメーリングリスト、ツイッター、Facebookグループを運用してきましたが、現在はFacebookグループが最も活発な場となっており、様々な情報が投稿され議論されていますので、興味のある方はぜひ登録してください。 次回のイベント等についても随時お知らせしていきます。
また、今年から始めた活動としては、防災、減災にITで取り組むための情報である注意報や警報、震源データ等を扱うための気象データ勉強会を開催しました。「ITx災害」会議の際の立ち話がきっかけとなったもので、4月に開催された第1回ではノウハウを持っているエンジニアや気象庁の方に講師として解説して頂き、多数の方に参加頂いて好評だったため続編も計画中です。
Hack For Japanでは1年毎に活動を振り返り、その後も活動を続けて行くかどうか改めて考えることにしており、3年を迎えた際のスタッフの話し合いの中では、Hack For Japanは緩やかにつながっているコミュニティとしても十分存在意義があることが再認識されました。例えば、災害発生時にHack For Japanのコミュニティに連絡すれば、そこでつながり、意義のある活動を開始できるでしょう。それだけでも、東日本大震災の時よりも状況は良くなっているはずです。さらに「ITx災害」で出来た繋がりも、何かあった時にすぐに連携出来る横のつながりと言えると思います。このコミュニティとしてのつながりを維持・強化していくこともこれからのHack For Japanの使命だと感じています。
while (Japan.recovering) {
we.hack();
}
最後にこのコードで締めたいと思います。これは「日本が復興するまでハックし続ける」という想いをプログラムコードで表現したもので、最初に作成したTシャツの背中にも刻まれています。この想いを忘れず、決して風化させることのないよう、今後も活動していきたいと思います。
高橋 憲一 / Hack For Japan スタッフ / イトナブ理事
震災以降Hack For JapanのスタッフとしてITで出来る復興支援とは何かを考えて活動を続けており、2012年11月から始まった東北TECH道場では石巻会場の講師として頻繁に石巻を訪れイトナブ石巻の理事も務める。本業はAndroidやiOSのアプリ開発エンジニアで、これまで3Dグラフィクスエンジンやセカイカメラの開発に関わり、現在は(株)スマートエデュケーションにて子供向けの知育アプリの開発に携わる。
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