2015年08月09日更新
「情報の空白地帯」を埋める:一般社団法人情報支援レスキュー隊(IT DART)創立総会レポート
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2015年01月22日
時代の変化とともに、ジャーナリズムに求められてくる役割も変化してきています。東日本大震災を通じて、その流れはより実感をもつようになってきています。いま改めて、ジャーナリズムが世の中にできることはなにか。震災など、未曾有の出来事をきっかけに、これからの未来とジャーナリズムのあり方について考えてみたいと思います。
地震、津波、台風など、これまで日本を襲ってきたさまざまな災害があります。その中でも、震災は突発的に起きる現象のため、台風のように予測をして対応することができない出来事だということは、みなさんも理解していることだと思います。ジャーナリズムがこれまで行ってきた取り組み、そして多くの人たちが期待することとして、阪神淡路大震災や東日本大震災に代表されるような大規模な震災から、各地を襲う洪水や土砂災害などのように、さまざまな被災の現場において、現地の様子を迅速で正確な情報を発信することが求められてきたかと思います。現地の様子をつぶさに把握することで、それらの情報をもとにした対応策を講じることができ、そのため、ジャーナリストは現地に真っ先に入り、時に危険な現地の貴重な情報を届ける役割を担ってきました。
まだテレビや新聞が主な情報源だった時代においては、現場に入って情報を収集し、発信する役割を担う人たちは少なく、ジャーナリストたちの活躍の場は広く存在していました。しかし、近年ではSNSの浸透などによって、あらゆる人が情報を発信することができ(もちろん、反面デマなどが広がる可能性も高い)、情報網と迅速さといった点においては、現場の当事者による発信が重要になってきます。そのため、個人の情報リテラシーやソーシャルメディア活用といったことに注目を浴び、個人の情報発信を通じた新しい情報のあり方が起き始めています。
また、正確さという点においては、オープンデータと呼ばれる情報の透明化と自由なデータ利用を推進する動きが世界で起きており、日本でも自治体や民間企業が協働しながら、データの公開やデータ活用を模索する動きが起きています。その根底には、オープンガバメントの考え方にあるように、オープン化の推進と市民と行政側とのコミュニケーションを行い、正確な情報を自ら発信し、市民による能動的な政治参加やまちづくりへの意識の向上を行うことが目的とされています。
そうした時代の変化において、だからといってジャーナリストたちの居場所がなくなったというわけでもなく、やはりそれでも迅速な情報の発信といっても、情報をどのように伝わるように発信するか、また現地の協力者や取材を行う上でのネットワークという目に見えない価値を抱えているメディアやジャーナリストたちの活躍とその影響力は大きいといえます。
しかし、迅速さや正確さといった速報性の高い情報だけがジャーナリズムではありません。災害は、起きた直後も重要ですが、起きた出来事に対してどのように対処し、その後どのように立ち直していくかを明らかにしていく継続性や、時にその対応策について批判をする監視的機能を講じることが重要です。また、その多くが何年や何十年もかかるようなものが多く、地道な作業の積み重ねを行わなければいけません。
特に、継続性はこれからのジャーナリズムにとっても必要不可欠なものと言えるでしょう。例えば、東日本大震災で被災した人たちの証言を中心に、NHKがもつ震災に関わる映像をもとにあの時何が起き、人々がどう行動したか、復興のためにどう取り組んできたか、といった活動をまとめた「NHK東日本大震災アーカイブス証言Webドキュメント」があります。このサイトは、いまでも証言映像や復興映像をアップデートし続けており、ときに震災から時間がたつほどに、私たちはその記憶から忘れてしまいがちになってしまうものを、日々丁寧に取材し、形にしていっている一つの取り組みと言えます。
普通の人にとって、やはり震災が起きた直後は、その現場がどうなっているのか、どう復興していくのか、ということを意識します。しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れるではないですが、誰もが普段の日常に次第に戻っていくにつれて、しまいにそうした現場の様子は忘れ去られていくのも事実。しかし、ジャーナリストにとってそうした過去の出来事を放置したままにしておくことはできません。過去に起きた出来事をきちんと継続して取材することは、客観的な事実を積み重ね、未来の時点で過去を振り返った時にその場でどういったことが行われていったのか調査をするときに必要な材料を揃えておくことでもあり、その客観的な出来事を冷静に分析する場を用意することでもあるのです。つまり、ジャーナリズムがもつ性質の本質は迅速さや正確さだけではなく、その継続性によって起きるアーカイブにこそ意味があるのではないか、と私は考えます。
例えば、首都大学東京准教授で情報アーキテクトの渡邉英徳氏は、東日本大震災で起きた震災の被害情報を被災地の写真やパノラマ画像、被災者の証言などをもとに可視化し、災害の様子を世界に伝えるデジタルアーカイブ「東日本大震災アーカイブ」を開発されています。他にも、「広島アーカイブ」や「長崎アーカイブ」など、原爆の被害にあった人たちの証言などをもとに、あの時何がおきたのかを丁寧に紐解き、形にする作業を行っています。こうした技術をもとにした取り組みも、一つのジャーナリズムとしてみることができます。
これまでアーカイブが紙面の情報でしかできなかったものが、デジタル技術によってあらゆるものをデータ化することができ、それによって検索性や参照可能性が増し、かつネットを通じて世界のあらゆる情報を収集し、それらを統合しやすくなったと言えます。また、集まったデータをただそのまま見せるのではなく、どのように伝わるような形にするかという流れから、データビジュアライゼーションや、データを通じてこれまで気付かなかった事実を掘り起こすデータジャーナリズムといった動きが出てきているのも、データやアーカイブによって新しい情報の価値を見出そうとする動きの一つと言えます。
あのとき何が起きたのか、そのとき誰がどんな行動を行ったか。行った行為がどういった影響を及ぼしたのかといったことを丁寧に紐解いていくこと。ことが起きるときだけではなく、ことが起きる前の様子、そしてことが起きた後の様子を、長い時間軸をもとに一連のコンテキストを踏まえた情報の集積を行っていくこと。そして、それらの情報を少しでも多くの人たちに伝えための情報発信のデザインを行うことが、今後ますます求められてくるでしょう。新聞や雑誌などの紙のメディア、ブログなどのウエブ媒体、さらには、講演やワークショップ、トークといったリアルな場を通じた発信など、さまざまな現代にはさまざまなメディアが存在します。多種多様なメディアを通じて、現場の情報、現場で体験したさまざまな情報を分かりやすく伝えるために、インターフェイスなどの情報発信のデザインや、情報設計そのものを考えることも求められてきます。そこに、ジャーナリズムができること、ジャーナリズムにしかできない次なる役割があるといえます。
これまでは、情報を届ける主体としてのジャーナリズムであったものが、時代の移り変わりとともに迅速さや正確さだけではなく、継続性とそれにおけるアーカイブ、さらに蓄積された情報を伝えるための情報設計が重要だとまとめてきました。
これまで、メディアを通じて事実を伝えるということが求められていたものから、事実を知る手段はSNSなど多岐にわたるものがでてきているからこそ、ジャーナリズムは情報を伝え形にすることがいま求められています。しかし、それだけではなくその次のあり方も、同時に見据えていかなければいけません。つまり、現場から見えてきた課題に対して、課題を課題だと伝えるだけではなく、解決に向けた道筋を報じていくことが求められてきています。ただ情報を伝えるだけではなく、その情報を得た人たち自身が課題に気づき、行動し、そして課題解決へと向かうためのアクションを促す存在としての可能性がそこにはあります。
どんな情報も、誰にも知られなければ意味がないように、その情報をもとに心を動かされたり、何かのアクションのヒントにしてもらったりしなければ意味はありません。災害が来た際に、来たものに対処するだけではなく、次に来た時に大丈夫なよう過去から学び、次への教訓とするための提案が求められます。そのためにも、ジャーナリストは情報の把握や事実の蓄積のみならず、最も情報に触れている立場から、次にどうしたら対策できるか、いまできること、これからすべきことといったものを発信していくことが求められてきます。
ただの問題への批判や提案だけではなく、課題解決をしている人たちを支援し、情報というツールを使って多くの人を巻き込んだり、人をつないだりする役割がそこにはあるでしょう。ただし、批判や提案の際に必要なことして、人を批判するのではなくシステムや仕組みに対して批判をすることが私は重要だと考えています。ジャーナリズムが個人を責めるのは簡単ですが、人は環境や仕組みによって成長もするし、よくも悪くも影響をうけ変化していくもの。本質的な解決策を示すためには、システムや仕組みに対して批判し、改善を提示するべきだと考えます。
こうした、問題提起や課題に向けた解決策の提案など、より一歩を踏み込んだジャーナリズムの形は、海外ではソリューションジャーナリズムと呼ばれています。ソリューションジャーナリズムという分野自体は議論が始まったばかりですが、情報を伝え、形にし、蓄積していくだけではなく、多くの人たちの課題解決に向けたアクションを促すといった、その先にある課題解決に対してジャーナリストの立場からできることはまだまだたくさんあると言えます。
問題解決へのアクションという意味では、地域の課題を自分たちで解決する団体であり、私自身も活動に携わっているCode for Japanなどがあります。ITやテクノロジーを通じて、市民の力で地域の課題解決を促進するシビックテックという考え方を提唱し、さらに市民と行政の橋渡しを行おうというもので、現代さまざまな自治体や地域コミュニティのリーダーたちとコミュニケーションを行いながら活動を行っています。彼らのようなローカルな活動をジャーナリストたちも注視し、ときにさまざまな情報を彼らに提供し、協働しながら課題解決に取り組むアクションを行うことも求められてくるでしょう。
シビックテックのように、市民発で地域の課題を解決するのと同様に、市民の力でジャーナリズムを育て、自分たち自身で情報を発信していくシビックジャーナリズムを育てることも求められてくるかもしれません。SNSの浸透によって誰もが情報発信に携われる時代だからこそ、情報発信のためのいろはや、情報リテラシーの醸成、ジャーナリストたちでも知ることができないローカルな情報を市民自身で届けるハイパーローカルメディアの活動など、さまざまな取り組みを私たち個人個人が行うことがこれからは求められてきます。
さらに言えば、いま改めて考えるべきは、ジャーナリズムを育てるのは私たち市民の意識だと言うことです。どんなにジャーナリストたちが志を高く活動をしていても、彼らの時間や体力が無限にあるわけではありません。最近ではメディアビジネスそのものの転換についても業界において熱い議論が交わされており、ジャーナリストたち自身もどのように社会と向き合い、どう生活をし、そして社会のために活動していくのか、そしてビジネスとして日々の生活の糧を支えるための土台づくりそのものも考えなければいけない時代でもあります。情報が可視化され、つながりができやすい時代だからこそ、これまで私たちにとって当たり前だと思っていた情報というものそれ自体を丁寧に紡ぎ、届けてくれるジャーナリストたちを私たち市民が評価し、応援し、サポートしていく協働関係を築くことが必要です。そうした環境は、例えばクラウドファンディングのような資金援助のプラットフォームを通じた活動支援など、さまざまな方法が考えられます。
ジャーナリストの人たちにとっても、誰かが自分たちが発信した情報によって有意義だと感じてもらえることが大切だからこそ、多くの人たちの評価や応援が彼らの活動の大きな糧にもなるのです。同時に、ジャーナリズムという存在は、これまで知ることがなかった現実、ときに隠蔽されがちな問題を問題だと可視化し、社会に訴える活動であり、私たち市民が社会のなかでもっている一つの手段でもあります。その手段を講じながら、社会のさまざまな問題を可視化し、課題を提案し、解決に向けたアクションを促す重要な存在としてジャーナリストたちがいるということを認識する必要があるのです。
震災をきっかけに、そして時代の変化とともにジャーナリズムという存在そのもの自体が問い直されている現代において、私たち個人ひとりひとりがジャーナリズムを理解し、ジャーナリズムが社会にとってどのように機能し、どのような役割を担っているのか。いま改めて考えることが必要となってきているのです。
以前、とある仕事で東京の墨田区を取材する機会がありました。墨田区は普段なかなか足を運ばない人にとっては縁がない場所かもしれませんが、墨田区という場所は、東京でも数少ない、いまだかつての昭和の形を残している木造密集市街地を抱えるエリアです。しかしそこは、現代においては延焼や震災における倒壊の危険性などから、危険な街ランキングにランクインする街なのです。その半面、街が危険ということを区民自らが自覚していることから、皮肉なことに都内で最も防災意識が高い地域として、独自の防災訓練や街のあらゆる場所で防災対策を行っている街でもあります。
ではなぜそんな木造密集市街地が残っているのか。それは、かつての関東大震災の名残だからです。関東大震災の被災後、東京を立て直そうと当時の内務大臣である後藤新平氏は帝都復興院を設置し、震災に強い近代のまちづくりの都市計画を立ち上げました。しかし、反対派に押し切られ、さらに内閣解散とともにその計画は頓挫。帝都復興院は解体されてしまったのです。
その後、帝都復興院の後を継いだ復興局によって後藤氏の計画の一部は推進され、表参道ヒルズ(かつての同潤会アパートは、当時の不燃鉄筋筋集合住宅計画の一つ)や浜町公園や清澄公園といった近代的な公園緑地による避難場所、昭和通りや靖国通り、明治通りといった延焼防止のための広い道路建設など、かつての復興事業の産物の一部がいまも残っています。しかし、計画は一部しか実行されず山の手沿線の内部しか区画整理がされなかったことから、山の手沿線外には無計画にバラックが建てられたまま都市開発が行われ、その結果木造密集市街地として今もその様子を形作っているのです。
では、改めて後藤新平が掲げた復興計画、都市計画とはなんだったのか。それらを今一度紐解くことで、東京の震災に対する新たなまちづくりのヒントになるかもしれない、ということを最近考えたりしています。他にも、歴史を紐解くことで、さまざまな防災、震災対策の過去の取り組みがあるかもしれません。また、分野が変われば防災に対する視点も変わってきます。さまざまな分野の人たちが知恵を絞り、アイデアをだし、そして行動する。メディアは、その様子をつぶさに発信し、時にサポートしていく。それぞれの役割をもとに、ともに考え、ともにつくるまちづくりを目指し、取り組んでいくことが、これからの社会にとって大きな意味をもってきます。
それはつまり、これからのまちづくりや都市づくりの一つのきっかけであり、ひいてはそれが防災や減災につながる取り組みでもあります。今という時代に生きる私たちだからこそ、まちや都市に対してできることを考え、行動し、自分たちで作り上げていく新しい文化を築き上げていくことが大切なのです。
江口 晋太朗 / 編集者 / ジャーナリスト / NPO法人スタンバイ理事
1984年生まれ。福岡県出身。編集者、ジャーナリスト。「社会を編集し、未来をつくる編集者」として、情報社会の未来や社会イノベーション、Urban Future、市民運動、参加型市民社会のあり方などをテーマに、領域を越境しながら企画制作やプロデュース活動を行う。まちづくりやコミュニティデザインに関する取り組みを行うNPO法人スタンバイ理事、ネット選挙解禁に向けて活動したOne Voice Capmaign発起人、オープンデータやオープンガバメントを推進するOpen Knowledge Foundation Japan、Code for Japanのメンバーとしても活動。著書に『パブリックシフト ネット選挙から始まる「私たち」の政治』など。
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