2015年10月02日更新
「まち」を「つくる」:COMICHI石巻 ー災害後のまちづくりを考える
被災、という言葉と、復興という言葉。防災ということを考えるにあたって、直後の災害対応について考えるだけでなく、より長い時間軸、人や街や共同体が新しい姿を模索していくことを中長期的な視点で捉えることは、このユレッジというプ…
2014年04月06日
現在「建築家」と呼ばれる人たちの職能は広がってきています。建物を建てるだけではなく、都市を俯瞰で見て必要な機能を考えたり、地域の人とコミュニケーションを取りながらまち全体の運営を考えたりしています。時には他分野との連携で地域の産業や教育に取り組むこともあります。
しかし東日本大震災の被災当初、建築家の活躍はほとんど見られませんでした。街全体が流出する巨大な被害に対して、次々に始まる土木構造物の建設。復興のスピードと行政システムから取り残された建築家の多くは、そのプロセスに参加出来ていませんでした。そして私自身、建築を学ぶ学生としてどう復興に関われるのか分からなくなっていました。防災の専門家とエンジニアにより防潮堤や嵩上げが全て終わってから、「ハイ、どうぞ建物を建てて下さい。」と言われるのを待つのでしょうか。それよりも、彼等と一緒に都市の基盤を考えていきたい、そのために必要な事は何だろうと考えました。震災から3年が経つ今、建築の職能を持つ人がどう復興や防災に関われるのか、もう一度考え、実践してみたいと思いました。
その一環で、宮城県石巻市の2030年を考える国際建築ワークショップ(Risk & Architecture Workshop Ishinomaki)を開催しました。12日間(2014年3月11日~22日)の期間の中、ヨーロッパ・日本からの19名の参加者と、専門家・地域の方で都市・建築的視点から防災のあり方と都市の将来像を考えました。
ワークショップ開催までの経緯を含めて、実施レポートを書きたいと思います。
私は過去2年(2011,2012)石巻で行われた国際建築ワークショップに参加しました。
第一回目の石巻建築ワークショップは、ベルギーのブリュッセル自由大学の先生により開催されました。震災からわずか4ヶ月後の2011年7月に、2週間かけて行われたものです。先生の研究室を卒業したばかりの学生と、先生の授業を受けていた日本人学生2人という、10人に満たない参加者でした。作業は被災したビルを手直ししたばかりの石巻工房を借りて行っていましたが、当時まだハエが多く、夜は寝床に帰るのにくるぶしまで水に浸かって歩いたのを覚えています。そんな中、地域最大のイベントである夏の川開き祭りに合わせて都市全体の将来像について提案を発表しました。石巻の復興を、単なるダメージからの回復でなく、21世紀ポスト産業都市の課題解決だと捉えた提案を行いました。当時は堤防を作るか否かといった局所的な議論が多かったのですが、私たちは都市全体の9つの課題(交通、エネルギー、水害…)について、それぞれどのように解決していくかを考える提案を行いました。
翌年7月、少し拡大して30人規模の学生が参加する国際建築ワークショップを行いました。その際私は日本側のコーディネーターとして準備等を手伝いながら参加しました。この回では、震災を機に石巻をよりサステナブルな都市へと変えるためのシナリオを描きました。その将来像を実行可能なものとするために、「現状を記録したマップ」と「最小限のデザイン」の2つを、それぞれ空き地、交通、海辺の産業、治水の観点から提案しました。参加者にとっては大変有意義なワークショップだったと思います。
しかし、この回は地域と繋がる事への難しさを感じた時でもあります。地元とのコラボレーション、行政との関わり方等、海外を拠点に準備するのは想像以上の困難を伴います。私としては、最前線で地域の復興に取り組む方々の気持ちも想像できるし、ヨーロッパから1年の準備を経てわざわざ来てくれた先生の気持ちも分かるので、只々上手くいかないコラボレーションと提案して帰っていくだけになってしまう状況を残念に感じました。
そして2013年、3回目のワークショップは行われない予定でした。しかし私は、ここで石巻ワークショップが終わってしまうのももったいないと考え、2回目のワークショップに参加したヨーロッパの学生たち数人と共に実行する事にしました。この時は、漠然と「継続すること」が大事な気がしていました。
そして2013年の3月、私たちとヨーロッパの学生でRAWという団体を立ち上げました。自然災害のリスクマネジメントは世界中のどの建築学科でも教えていない事に注目し、自らリスクマネジメントと都市・建築デザインについて学び、考える機会を作る事を目的としました。
活動の一つは国内外での国際建築ワークショップの開催です。石巻のみならず、世界で同じく水害の悩みを抱える都市に取り組むことで、2つの事例を比較する事を考えました。そうする事で、より一般的に使える知見を得ると共に、共通の課題を抱える都市同士が繋がるきっかけとなる事を目指しました。2013年の7月には、地勢が似ており同じく高潮・ハリケーン等の水害に悩まされるフランスのロシュフォール市でワークショップを行いました。
【準備】
準備の始まりは、震災から3回目となるワークショップはどんな意味があり、これまでと何が違うのか、という事を考えるところでした。当初は、提案が役に立つものでなくてはいけないのでは、地域に具体的な還元をしなくては、しかしたった2週間で何が出来るのか、と悩んでばかりいました。しかし、多くの人の話を聞く中で、3年かかって解決されていない問いに2週間で解を出そうと考えるのも欲張りだと気づきました。実行される提案を作ることだけが素晴らしいとは限りません。もっと長期的な視点から、「学生」と「地域の人」に学び・気付き・きっかけをもたらすワークショップとしての最高の形を目指そうと思うようになりました。
地域の人との関わりを築くのも手探りでした。初めは一方的に企画を説明して、どのように関わってもらえるか相手に問いかけていました。しかし、「それでは相手の興味を引けない。相手の興味のあるところと自分たちの企画はこう繋がるのでは?という風に話をしたほうが良い。」、といったアドバイスを頂きました。次からはそうした話ができるように、相手の活動と防災との関係について事前に良く調べてからヒアリングに向かうようにしました。今思えば、ヒアリング一つとっても地域の方に助けてもらってばかりだったと思います。
こうした経験から、「防災」を自分事にしてもらうためには、地域の人の活動とどう繋がるのかを示せると良いのではと思うようになりました。
最終的に、今回のワークショップは以下の2点を目標としました。
何より、防災の視点から考えて強いコミュニティというのは、地域の人自らまちの課題を見つけたり、まちのビジョンを更新したりできるようなコミュニティです。2週間しかいない私たちではなく、年中いる地域の人達に、街全体の防災と自分の活動がどうつながっているかを感じてもらう事が大事だと思いました。
【実施】
期間中3日間の石巻滞在では、地域の人に歴史や震災後の課題を教えてもらいながらフィールドワークを行いました。3つに分けたグループは、それぞれ1つの地元団体にパートナーとなってもらい、1つの対象敷地に取り組みました。対象敷地は、都市全体から見て課題があり、かつパートナーとなっている団体の方が関心のある場所としました。
その後は仙台に戻り、専門家のアドバイスをもらいながら提案の作成を進めていきました。
【発表】
最終日は地元の方、石巻の復興に取り組む専門家の方をお呼びして石巻で発表会を行いました。
発表会ではこのような場面がありました。
石巻市の海辺には、津波によりほとんどの建物が流され、メモリアルパークとなる事が計画されている48haの広大な土地があります。学生たちは、記憶を伝えるために自然の風景を残す事と、場所を維持していくための生産性を持つ事を考え、農地や養殖の場として利用する事を考えました。丘の上から見ると、元の住宅地の区割りを残した農地が広がり、その農の風景が石巻の新しいランドスケープとなるという提案でした。
それに対して地域の方が、養殖の用地となる場所には重要な碑がある事を指摘しました。また、水没してしまう地区に住んでいた人の気持ちを考える事の重要性についてもコメントをしました。
これは、よそ者の大胆な提案と、地域の人の現実的な意見が交換された良い場面だと思いました。大きなスケールで経済的側面を考える意見と、小さなスケールで家屋一軒一軒を考える細やかな意見はどちらも重要です。一方が優れているという事では無く、二つの全く異なる意見の距離が計れた事が大事なのだと思います。お互いの距離が感じられることで、その「間」にあるであろう解について今後考えていくきっかけとなるのだと思います。
当初の疑問であった「防災における建築デザイン的視点の可能性」について、3年間の経験から考えた事をまとめます。
以上のような事が、様々な専門家、学生、地域の人、先生たちとの関わりの中からだんだん見えてきました。
「ワークショップは短期戦ではなく長期戦」
従来建築のワークショップとは、1日~1ヶ月の間どこかの場所に身をおいて、集中的に課題に取り組むものです。そこでは、短期決戦でより良い解を出す事が目標だと思われがちです。しかし実際は、短期間で完璧な答えが出るはずはありません。むしろ、他者との協働やフィールドでの活動を通して、たった一つでも「体験的な」気付きを得る事が重要です。それが、いつかその後の人生の中で他の経験と結び付けられた時に新しい発見をもたらします。ワークショップとは、そうした息の長いプロセスの中の一瞬だと思います。
しかし、参加者に刺激的な体験をもたらし、地域の人に気づきを与える提案を創りあげるためには、入念な下準備が必要です。さらに、気付きを寝かせておくワークショップ後の熟成期間も必要となります。このように、ワークショップの本質はその前後の期間にあるのかもしれません。
「地域に還元する仕組みへ」
今回の被災は日本に留まらず、世界中に教訓として発信していく必要があるものです。そんな中、被災地を訪れて学びたい、力になりたいという外国人を受け入れながら、彼等の知見を生かしていく仕組みが出来ればと考えました。しかし、いくら彼らが活用できる知識を持っていても、地域に体力や仕組みが無いとその活用は難しいのが現状です。そのため、私たち地域の学生が中間に入る事を考えました。
かなり理想的ではありますが、図のようなサイクルができると良いと考えています。「外部者の知見の活用」と「被災地の教訓の発信」が同時に行える事で、持続的な循環が出来ていくと思います。また、得た知見を無理に被災地に生かそうとするのでは無く、ワークショップ参加者が持ち帰って自らの故郷で、または他の土地で生かしていく事も重要です。そうすることで、被災地だけの循環を超えた、他地域との繋がりへと発展させていく事が出来るのだと思います。
震災は、様々な意味で「分野横断的」取り組みを引き起こしました。役所の違う部署同士が協力する、様々な専門家がチームを組む、地域の話したこともない人と話をするといった事です。分野横断しなければ対応できない程被害が大きかった事という事かもしれませんが、こうした取り組みは結果として輝かしい成果ももたらしています。
一方、自分の領域を超えて関わったことの無い人と接する事は大きなストレスを伴い、摩擦を引き起こします。今回のワークショップも、多くの地域の方、外国人専門家、先生たちが忍耐強く関わってくれたからこそ何とか終了出来たのだと思います。初めてのコラボレーションには多くの失敗もありました。地域に何か還元したい等と偉そうな事を言っておいて、地域の人に支えてもらってばかりでした。さらに、国際交流基金、JIA、その他様々な機関にチャンスを与えてもらった事で企画が実現しました。長い目で見てくださった多くの人達に感謝です。結果についても長い目で見ないと分かりませんが、少なくとも参加者が様々な思いを持ち帰ってくれた事について良かったかと思います。
世間では、様々な場所で「分野横断的」な取り組みが増えてきています。100の分野のプロフェッショナルが自分の仕事と防災をつなげて考えてみたら、100通りの解が出てくると思います。分野を超えて考えるのは、産みの苦しみもあるかと思いますが、そうなると面白いだろうなぁと思います。
鈴木 さち / 東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻博士課程後期1年 / RAW
宮城県出身で、地元で都市・建築デザインを学んでいます。学部4年生になる時に被災し、その後修士課程では仙台市、石巻市の沿岸部の復興に取り組んできました。現在は、ヨーロッパの学生・大学の後輩たちと共に、Risk & Architecture Workshop Association (RAW) として「防災における都市・建築デザイン的視点の可能性」について考える取り組みを行っています。
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