2015年10月02日更新
「まち」を「つくる」:COMICHI石巻 ー災害後のまちづくりを考える
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2015年03月07日
取材:葛原 信太郎
災害は、私たちを守るありとあらゆるものを破壊します。家も道路もライフラインも。体一つで自分の命を守らねばならぬ状況は、自然の中にリュックひとつで挑むアウトドアの世界とよく似ています。ということは、アウトドアに災害時を生き抜くヒントがあるのではということで、アウトドアプロデューサー、ネイチャーインタープリターとして、自然の中でプロとして仕事をするBe-Nature School スタッフの長谷部雅一さんにお話を聞いてきました。
「普段から自然と接している人は、自然とダイレクトに向き合う瞬間が必ずあるんですよね。そういった経験は、災害時にも考えられる余裕を作ります。事実を受け入れるのが早いんでしょうね。自然に対して挑戦はできても、征服はできない。やっぱり私たちは大自然を前にしては無力なんですよね。それを早めに受け入れて、次に何をすればいいかを考えられるかどうかは、生存率の向上につながっていると思います。
新潟中越沖地震の時には現地に入って、サポートをしたのですが、『未だに信じられない』とか『夢なんじゃないか』とか『放心状態でどうしたらいいのか分からなかった』という話をよく耳にしました。
例えば、自宅が倒壊してしまった人の話を聞きましたが、その人はどうしたらいいのか分からなくて、とにかくブルブル震えていたそうです。しばらくして『寒くてもうだめだ』と限界に近づいていたとき、ふと火をつければいいと気づきました。タバコを吸うからライターは持っていたのです。でも、火をどうやってつければいいか分からず苦労した、と。落ち着いた状況であれば、倒壊した家から木材を調達し、薪にすればいいのにと思いますが、そこまで気が回らなかったようです。」
自然の中に身をおくと、人間の無力さを実感します。人間は気温を上げることもできなければ、雨を止ますことも降らすことも出来ません。同様に地震を防ぐこともできません。いち早く現実を受け入れ、絶望することもなくパニックになることもなく、とにかく『次への行動』のタイムラグを無くす。頭をフル回転させ、経験したことのない地獄のようなリアルを生き抜かねばなりません。
「寒さに鈍感になっている毎日を送っている人も多いのではないでしょうか?朝起きたらタイマーで暖房が入っていて部屋は暖まっている。体が冷えきる前に地下鉄に乗ってしまう。地下鉄に乗ったらコートを脱ぐほど暖かくて、降車したらオフィスビルが駅と直結している。オフィスは当然暖かく、夜までそのままオフィスにいて、帰る。体が冷えきることはないんです。そこには、自然と向き合う時間はありません。
自然の中に普段から身をおいていると、自分の体力の限界はある程度分かりますから、ここから更に歩いたらマズイと決断もできるでしょう。地図を見て、現在地も把握できますし、どちらに進むべきか判断もつきます。天気もある程度予想できますし。
もちろん、遠い自然の中に入るのがいいですが、身近にある小さな公園でもいいんですよ。なんとなく自然に触れているだけで違うんですよね。ランチを公園で食べるとか、休日は公園で過ごすとか、まずそういうレベルから肌感覚で自然を感じることが危機管理に役立ちます。
仕事で野外フェスに行ったことがあるのですが、多くの人が炎天下で3日間楽しみ続けて、その最終日の3日目の14時頃にやっと、地面が土で木陰で気持ちがいい場所に、みんなが集まりだしたんです。風が通って、日陰で、土が気持ちよくて、多少雨が降っても上に木があって濡れない場所。良かったって思いました。でも、ちょっと遅すぎる。服に泥がつくのと、休めるの、さぁどっちが大事?ってことです。DNAの奥底には、人間にも野生があるんだけど、現代人は目覚めるのが遅い。遅いけど、目覚めることができるってことが重要です。」
長谷部さんがコンサルティングに入っている幼稚園や保育園の子ども達は、火がつきやすい枝かそうじゃない枝か分かるそうです。みなさん、分かります?『パキッ』と気持ちのいい音で折れればよく燃える、つまり乾燥している木ってことです。こういったちょっとした知恵は、自然の中で過ごしているといつの間にか身についていますね。
「でも、何かを知っているだけじゃダメです。アレがなければこれができないとか、そういうことじゃなくて、これはアレの代わりにもなるよね、とか。こういうふうにも使えるようね、というような、アナログ的な知恵というか。
スペックの高いジャケットを持っていたら命が助かるわけじゃないです。だって、大昔の素材でエベレストに登っていた人がいるんだから。今持ってるモノで何ができる?っていうのが重要になってくると思います。」
さて、ここからは長谷部さんが教えてくれた具体的な知恵をお伝えしていこうかと思います。阪神淡路大震災、東日本大震災は共に冬に起きた地震でした。そんなとき、被災者を苦しめるのは寒さです。そういった寒さから身を守るにはどうしたらいいでしょうか?
「寒さを防ぐには、空気と水を防げばいいんです。だから、空気の層をいっぱい含めるようなものを身につけ、その上から水に濡れないようなものをまとえば、かなり寒さが軽減されます。新聞を服の間に入れると暖かいといいますが、そのまま入れても空気はほとんど含みませんね。だから、一度くしゃくしゃに丸めて広げた新聞紙を入れる方がいいです。雑誌も同じで、そのまま挟んでもしょうがないので、全部ちぎって、くしゃくしゃにしたものを広げて身にまとったほうが暖かいですね。その上で、水を防ぎます。アウトドア用のカッパがあれば最高ですが、大きなビニールでもいいでしょう。身にまとってください。」
さらに火で暖をとれれば申し分ないですが、、、
「始めに言っておきますが、ゼロから火をおこすのは難しいです。いろいろHOW TOはあります。例えば、単一電池とホイルで発火させるとか、木をこすり合わせるとか。でも、あれって日頃からちゃんと練習しておかないとできないんですよ。それだったら、ジッポライターと詰替え用のオイルを持っている方がよっぽどいいです。ライターの中でもZIPPOをオススメします。なぜなら、力を入れずにつけたままにできるから。これはすごく重要です。例えば、置いたまま暖がとれたり、明かりをつけたまま歩くことができますね。唯一の難点はつけっぱなしにしていると、オイルのヘリが早いことです。だから予備のオイルをもっておくといい。詰替え用のオイルで手早く大きな炎にすることも出来ます。
僕は、アフリカで道を見失ってして4〜5日帰れなかったことがありました。そのときに、ZIPPOと普通のライターがあって、ZIPPOのほうが圧倒的に役に立ちました。震災が夜に起きれば、街には本当の闇に襲われます。月明かりがあればいいけど。新月だったら本当に真っ暗です。経験したことがない人は分からないと思いますが、すごく怖いんですよ。その闇に飲まれてします。本当に怖いんです。音が吸い取られるような感覚になって耳がおかしくなるし、前後左右だけでなく上下もわからなくなる。夜起きたらその闇の中で、手元にヘッドライトがあればいいけど。そんなことはありません。さぁ、なにしようかって考えられるかどうか。」
「そして、なによりも大事は、最悪な状況にならないように行動することです。対処方法が分かるということよりも、それ事態が必要ないように行動する。
例えば、人間は菌に弱いので、吐しゃ物を片付けるときや、怪我をしている人に触る時は手袋をつけるのが大切。もちろん、自分の菌で誰かを感染させちゃうおそれもありますから。指先は、一番怪我しやすい場所です。掃除用のゴム手袋や、調理用の薄い手袋でもいいので、保護バリアをしましょう。
また、日常的に常備薬はもっておくといいですよね。ファーストエイドセットと一緒に。痛み止め、風邪薬、解熱剤、絆創膏、綿棒、頭痛薬、胃腸薬、、、自分が使うための薬です。体に合う、合わないがあるので、薬剤師に相談するといいですね。」
長谷部さんが新潟中越沖地震のときによく聞いたのは、人にぶつかって転倒とか車に轢かれたとか、人由来の事故が意外と多かったそうです。多くの人が気が動転していますから、十字路での車の一時停止なども守られない可能性が高い。十分に気をつけるといいでしょう。
体一つで自分の命を守らねばならぬ、アウトドアと災害はやはり非常によく似ています。時間とともに鈍感になる私たちを自覚し、適宜適正なバランスにしてあげることが必要です。まずは公園に出ることからはじめられるアウトドアなら、気軽に楽しみにながら続けることもできそうです。
夕日が沈む美しい海も、多くの命を奪った津波も同じ海。穏やかな自然に慣れてしまった都市に住む人の野生は、すっかり心の奥底に眠ってしまっています。震災からもうすぐ丸4年経ちますが、地震の恐怖も風化していませんか?あなたの野生は敏感ですか?
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