2015年10月02日更新
「まち」を「つくる」:COMICHI石巻 ー災害後のまちづくりを考える
被災、という言葉と、復興という言葉。防災ということを考えるにあたって、直後の災害対応について考えるだけでなく、より長い時間軸、人や街や共同体が新しい姿を模索していくことを中長期的な視点で捉えることは、このユレッジというプ…
2013年11月15日
【加藤】イノベーションって、先程の車などのお話も出ていましたけど、色々な捉え方あると思うのですが、一つの側面はクライシス・レスポンス(危機対応)というような、危機に直面した時に新しいものを生み出さなければいけないという話だと思います。
【児玉】今のクライシス・レスポンスという言葉には本質的な意味があると思っています。というのは、例えば自動車などを考えた時に、製品には色々な要素がある。それで、それらの要素のどれが本当に重要な要素かというのはよく見えない。価格とか、機能性とか、ブレーキが良いとか、色々あります。だけれど、ある程度、社会の中の存在としての自動車ということになると、環境への負荷が大きいか小さいかというのは、成長の限界になる。それがクライシス、四日市の大気汚染や東京の光科学スモッグなどの問題に直面した時に、日頃たくさんの物事があって、どれが本質かわかってない要素が見えてくる。お米の検査機の場合も、単純に検出感度を上げるという問題ではなく、福島へ持って行くと周辺の放射線量が高いわけですよね。そういうところに機械を持って行くと、感度が良すぎる機械ではノイズばかりになってしまいます。だから、シグナルを上げるよりノイズを減らす技術が、あの機械では鍵になっているのです。シグナルを取る技術というのは今いくらでもあるわけです。専門家がそれはできないよというのは、至るところに放射線がある環境で、細かなものを見たらバックグラウンドばかり拾っちゃうよねという心配。PETで1mmの人間の癌を探すように、米でもシグナルは十分取れます。けれども、今まで見えにくくて大事だったのは、ノイズを下げなければならないということで、そこに開発していた技術が役に立ったのです。だから、シグナルが取れれば良いとか、コストが安ければ良いとか、色々なポイントがあるけれど、ノイズを下げる技術が細かなシグナルを取る時には大事で、それができたために、周りが汚染されている環境でも検査できるようにまとめあげることができたことが一つの味噌であり、それがイノベーションなのです。
【加藤】そう考えると、僕ら素人なので、イメージがわきづらいのですが、魚の検査になると、米の袋を検査しているよりも、誤差が生じやすそうな印象があります。
【児玉】お魚と言っても漁協の方に聞くと色々な種類があって、初期にはコウナゴとかシラスなどに海の水が汚染されて影響があったのですが、今はそれが拡散されて下がって来ています。シラスやコウナゴはお米の検査機と同じようなカゴに入れれば、その中で、問題があるかないか、というのは、判断できます。ところが、今、福島の漁業で一番測って欲しいのは何かと聞いたところ、ヒラメとかカレイ、なんだそうです。これは高級魚としての付加価値が高いということと、一定の数の水揚げがあります。このようなカゴで捕っているというのです。
【児玉】これは島津製作所の技術者の方が刺し網の船に乗って送ってくれた写真なのですが、これで見ると4枚か5枚がカゴに乗っていますよね。このまま検査機にかけることができるだろうと思います。後は検査機というのは近ければ近いほど感度が高くなります。放射線の検出感度は距離が近いほどよくなりますから、距離が半分になれば4倍感度が上がりますよね。ですから、そういう意味で、これでやれば4匹一度に測る機械というのは割とすぐにできるはずです。現実を見て、ニーズを知って、細かな機械を知って、そうすると無理不可能と見えたことが、「あ、なんか、測れそうだな」と考えられることがおわかりいただけると思います。ここで測ろうとしているのはセシウムで、底魚だからセシウムが入りやすいのです。このヒラメとかカレイが、福島の漁業にとって一番付加価値が高い、つまり利益を生むとしたら、全部検査できますよと言われたらすごく意味がありますよね。一匹ずつの基準値の10倍測れれば、一匹数値が高い魚があれば必ずひっかかります。4匹が皆同じじゃなくても、4匹ずつ測っていれば、10倍の感度があれば、1匹が汚染していれば必ず引っかかります。そうしたら引っかかったカゴを1匹ずつ検査すればどれが汚染されているかすぐわかります。ですから、問題を分解していって、一番現実に近いところに解がある。イノベーションというのの一つの具体的な読み解き方が、この写真一枚でもイメージできると思います。
イノベーションというのは、もう一つには色々な技術を持っている人が現実と向きあうというところが大きくて、日本の企業に元気がなくなってしまったのは、現実の問題と向きあうチャンスがなくなったというところがすごく大きいのではないか、と思います。お魚の検査機もこの写真一枚で色々な考え方が湧いてきて、必ずやっていけるはずだということはおわかりいただけると思います。
土の問題もやはり同じだと思うのですよね。先ほど申し上げた、フレコンバッグに入った土を減容化する。今、政府はそれをなかなか理解できない。それから、2011年にセシウム回収型の焼却炉を郡山で実証実験を行っており、良い結果が出ていますが、それをやりましょうということになると、放射能を撒き散らすのではないかと心配な住民の方に不安を与えてしまうのですよ。でもこれは、昔の東京のゴミ戦争と一緒なんです。江東区の埋立地にゴミを持って行ったところ、江東区の住民が江東区はゴミ捨て場ではないですということになります。各区で焼却工場を作ろうとした際に、ゴミを燃やしたら汚い煙が出るという話があったのですよね。僕が住んでいるところのそばには目黒の清掃工場があるけれど、立派な排気の管理システムがあって、排気ガスの中に一旦金属とか有害物を気化させます。燃やした後にコージェネと言って温度管理をして、温度を下げると物理法則ですから、必ず液体か固体に戻ります。そこで金属や有害物質を除きます。カドミウムの除去などでも使われている方法です。その方法はセシウムにも使えて、セシウムは641度で気体になります。それを200度以下にすれば液体か固体になります。これは物理法則ですから例外はありません。
そうすると問題は、そういう温度管理をきちんとできる焼却炉かどうか、それから、液体や固体になったセシウムをきちんと除ける仕組みができるかどうか、そして、こういう放射性物質の濃いところは放射線管理区域になるから、出口に線量流量計というのをくっつけて、モニターする必要があります。そういうことをやれば、外に出ないようにすることができる。目黒の清掃工場ができた時に、周りの目黒川も綺麗にして、桜の並木も綺麗にして、今は代官山から中目黒、目黒の清掃工場までは東京でも一番イタリアンレストランとかファッションの街になっています。私が申し上げたいのは、福島の原発事故からの復興のためには、きちんとしたセシウムを回収する焼却工場を作る。そうすると、セシウム回収ってお金かかるというけど、放射性物質を含むゴミを1000万トンも、どこかに積んだままにしておいては、想定外を起こしかねない。それから、庭先に埋めるとか、フレコンバッグをそのまま置いておくだとか、住民はとても耐えられることではありません。だから、早くフレコンバッグを集めて、セシウムを取り除きます。除いた土は建設の再生資材として、100ベクレル/キログラム以下になるという実証実験が出ていますから、それをもとにリサイクルに持って行くということが鍵だと思うのですよね。現実を知っている人は、まずこのフレコンバッグを何とかしないと、除染も何も進まないというのがわかっていると思います。住民の方にもきちんと説明した上で、飯舘村で最初のセシウム回収型の実証炉というのが今作られ始めていて、来年に稼働を目指していますが、そういうものの成績を見ながら色々なところにセシウム回収型の焼却炉を作って、ゴミの中で、放射性のゴミの量を減らしていく、それでその濃縮されたものを集める施設を作るという方が、放射線管理の常識からすると、はるかに管理が楽なのです。福島の問題でよく誤っているのは、濃度で放射性物質の危険性の議論がされる。例えば1万ベクレル・kgのものが1万kgあるのと、1億ベクレル・kgのものが1kgあるのとでは、我々は1億ベクレル・kgのものが1kgの方が管理しやすいのですよね。濃度が濃いことより、容積が大きいことの方が管理を難しくする。だから減容して濃縮するのです。これは簡単な放射線管理の原則であって、環境から除染するのは、放射性物質を濃縮して隔離することですから、濃縮すればするほど管理が楽になります。一般の方の感じと逆になるところがあります。
【加藤】かさが大きければ大きいほど、リスクが高いということですよね。
【児玉】そうです、それに加え、遮蔽に必要な厚さというのは、濃度ではなく、全体の総量で決まります。1億ベクレルあったら1億ベクレル用の遮蔽が必要。そうすると、量が少なければ少ないほど、遮蔽も少なくて済みます。厚さが同じだったら、1万kg保管よりも1kg保管する方が遮蔽は簡単です、というような議論になるわけです。そうすると放射能管理の原則からすると、今、ゴミの減容化、特に土ですね。燃えないゴミを減容化するというのがすごく大事だと思っていて、土を綺麗にするということができれば、残りは水を綺麗にするという問題になると思います。
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