2015年10月02日更新
「まち」を「つくる」:COMICHI石巻 ー災害後のまちづくりを考える
被災、という言葉と、復興という言葉。防災ということを考えるにあたって、直後の災害対応について考えるだけでなく、より長い時間軸、人や街や共同体が新しい姿を模索していくことを中長期的な視点で捉えることは、このユレッジというプ…
2015年03月10日
【加藤】前回と言っても大分以前ですが、この研究室にお伺いした時に、レジリエンスという言葉をうかがって、そこで思い出したのが児玉龍彦さんの取材で、災害後のイノベーションをクライシス・レスポンスという言葉で考えたんですね。負荷を背負ってしまった反動として、イノベーションが生み出されて、それは平素世の中が動いている中で生まれ得ないもので、それはある意味、学習が活かされている部分もあるし、それは今まで他でニーズが見つかっていなかった技術のニーズが見つけられる、というような文脈もあって、そういうこともあって、今回レジリエンスのお話をもう一度うかがいたいと思って、うかがっているんですよね。
【丸山】なるほど。実はそのイノベーションという考え方は、むしろエコロジーの世界にあった考えで、森林の生態系は段々繁栄して主要な樹や生物が生えて、それがドミナントになって、その領域全体を同じような生態系が占めて、その人たちが繁栄するわけですよね。ただそれは安定した繁栄をするのだけれども、お互いに依存関係を持った生態系なわけです。それが何かの拍子、例えば火事が起きるとか、何かのウイルスが流行るとかで、どこかの岐路で狂うと、一斉にその複雑になりすぎた生態系が崩れるわけです。それで一気にシステムが破壊されるということが起きます。でもそういう繁栄していた種がいなくなると、そこには無限の可能性がある領域が残るわけです。そこで色々な新しい種が起こる、それがイノベーションなんです。その中で競争があって、生き残ったものが段々繁栄する、そういうサイクルが回るというのが、生態系におけるレジリエンスの考え方です。
【加藤】そういうことで考えると、ある意味、被害というのは織り込み済みで考えないといけないこともあるということですかね。
【丸山】そうでしょうね。たまには大きな災害が来て、また一から始めるとよりよいものができていくということじゃないですか、ということだと思います。
【加藤】ただ、被害を最小限にしつつ、でも失ったものをちゃんとリカバリーできるようにするには、きちんとイノベーションが行われて、「よりよく」なっていかないといけないということですよね。
【丸山】そうですね。ただ、そこにはすごく難しい哲学的な問題があって、レジリエンス、このシステムはレジリエントです、と言った時に、何が残ってればレジリエントだって言えるんですか?ということがあります。例えば東北はある意味レジリエントだったと言えるのかもしれないですね。だって今でも東北の人たちというのは社会を持って生き残ってますし、どれくらい繁栄しているかということはわからないけれども、全く焼け野原になったわけではないですよね。ただし、亡くなった方や、家族を亡くされた方にとって見れば、それはレジリエントじゃなかった、とも言えるわけです。だから、誰にとってレジリエントだったか、ということを考えないといけないと思います。
【加藤】そういう意味で言うと、先ほど丸山さんに僕がご質問いただいたのは、どれくらいのスパンでシステムを見るか、というお話だったと思うのですが、サイズ感というか、どれくらいのエリアでシステムのレジリエンスを見るかという議論もあるのかなと思いました。
【丸山】そうですね。私たちは「粒度」と呼んでいますけど、どれくらいの粒、人一人のレベルで考えてみれば、亡くなった人のことを考えればレジリエントとは到底言えない。でも日本とか東北地方とかそういうレベルで考えると、生き残ってるというふうに言えます。人類が滅びて、他の生物が生き残って、それをレジリエントと言うか、そういう粒度もあります。
【加藤】先ほどの哲学的なお話、ということになりますね。今のお話って現実問題においてはすごく大事だと思っていて、例えば日本全体を考えるという話と、東北の一つの市町村を考えるという話は、両方のシステムズ・レジリエンスの話があって、どっちが大事だという話ではないけれども、サイズ感が全く違う、粒度が全く違うわけじゃないですか。
ある意味、こちらでやられてることって「システムズ・レジリエンスにおける基礎研究」というような位置づけかと思っているのですけど、その時に割と大きなシステムに対してどういう働きかけをしていくのかというのはイメージがわきやすいと思うのですが、このユレッジというサイトでも、石巻の現場でボランティアのコーディネートをしていた方のインタビューとか、まちづくりをこれからどうやってやっていくかというような話を書いてくださった方もいるんですけど、そういう小さな現場に今研究されてるシステムズ・レジリエンスのメソッドを渡そうと思うと、どういう渡し方ができるのかなと思いまして。
【丸山】なるほど。そこまでは私たちまだ手が回っていないんだと思うのですが、先ほどレジリエンス・サイクルの考え方とか、僕らタクソノミーというのを作っていて、どういう擾乱について考えるのか、擾乱も地震のように急激に来るものと、温暖化とか少子高齢化みたいにものすごく時間をかけてやって来るものもあるんですね。自然災害のように意図を持ってないものと、テロとかサイバーアタックのように弱いところを狙ってくるもの、それによっても全然守り方違いますよね。どういう脅威に対してレジリエンスを考えますかというというのがまずは大きな軸なんです。
それから今度は守る側のシステムのタイプとして、守る側のシステムにどれくらい人の知恵を入れることができますかという軸があります。コンピューター・システムみたいなものは自動で回るところが結構ありますし、生物のようなものはある意味自動ですよね。自治体とかそういうようなものは人の知恵で回っていく。その中には粒度の話を先ほどしましたが、個人のレベルで考えるのか、グループのレベルで考えるのか、コミュニティのレベルで考えるのか、国のレベルで考えるのか、というような粒度があります。
それから3つ目の軸が先ほどのサイクルの軸です。
加えて、レジリエンス自体を3つに分けて考えています。元の姿にきちんと戻るというのがエンジニアリング・レジリエンス。イメージとしては壊れた部品は新しい部品で元通りに取り替えます、ということです。
もう一つがファンクショナル・レジリエンスと言っていて、元の姿でなくても良いから、同じ機能のものに戻りましょうというものです。例えばトヨタのサプライチェーンがなくなった時に同じ機能の部品を提供してくれる別のサプライヤーを持ってくる、それがファンクショナル・レジリエンスです。
最後がアダプティブ・レジリエンスで、そもそも機能的に戻らなくても良いので、別の機能のものに、新しい姿に生まれ変わるということ。それがイノベーションの話だと思うのですけど、戦争に負けて大日本帝国憲法というシステムが基本的な部分は消えてなくなって、全く別な民主的な国家が現れた、というようなことはアダプティブなレジリエンスだったのかなというように考えているんですね。
そういうようなレジリエンスを考える時の色々な軸があります。ですから、私たちは、どういう脅威に備えるんですか?、どういう単位でレジリエンスを考えるんですか?、そのレジリエンスを実現するためにサイクルのどこに手を打つんですか?、何か大きな擾乱の時に元の姿に戻りたいんですか?それとも新しい姿にしたいんですか?、という4つの軸でレジリエンスを考えましょう、というお話をしています。
【加藤】ではその4つのマトリックスでシステムを考える時に、必ずしもゼロベースではなくて、今、例えばこの4年くらいで現場の人達が考えて来たことの評価ということもできるんでしょうか。
【丸山】そうですね。やっておられることというのは、この4つの軸のどれかにはまるわけですよね。そうすると、でも待てよ、このサイクルの中で、今やっていることはここだけれども、別のフェイズでもできることはないですか?ということを考える際のヒントになるんじゃないかと思います。
【加藤】足りないところが見えてくるという。
【丸山】そうですね。あるいは今見ているのは地震だけだけど、パンデミックが来た場合にはどうするんですか?というようなことを考える材料にもなると思います。
【加藤】今日、僕自身もどういうお話になるか想定できずにうかがってしまったんですけれど、とても勉強になるお話をうかがえてとても良かったと思っています。ありがとうございました。
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